ガタガタ書評ブログ

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こ、これは…どう評すれば良いのだろうか…−パク・ミンギュ「カステラ」

今年創設された「日本翻訳大賞」の記念すべき第1回大賞を受賞したのが、パク・ミンギュ「カステラ」であったことは、「日本翻訳大賞」という文学賞のスタートとしては、最高の選択だったのではないだろうか。

カステラ

カステラ

 

この作品が「日本翻訳大賞」を受賞するまで、恥ずかしながら、私はこの作品が日本で翻訳出版されていることすら知らなかった。もっとも、「日本翻訳大賞」の選考委員5人の中でも、金原瑞人さん以外は候補になってはじめて知ったそうなので、私のような読者の方がむしろ多いのかもしれない。

「カステラ」の魅力を説明するのは簡単なことではない。なぜなら、収録されている短編のひとつひとつが、読者を翻弄するワンダーゾーンを築き上げているからだ。

表題作にもなっている「カステラ」を読み始めたときは、いわゆる“マジック・リアリズム”文学の韓国版なのではないか、と思っていた。だが、読み進めていくとそんなジャンルでは括りきれない独特の世界観が構築されていることがわかってきた。

他の作品も同様だ。そもそも、タイトルからして人を食っている。

「ありがとう、さすがタヌキだね」
「そうですか? キリンです」
「どうしよう、マンボウじゃん」

これらのタイトルは、決して翻訳にあたって訳者が考えてつけたものではなく、オリジナルの韓国語題がこのままなのだという。これは、先日行われた日本翻訳大賞の授賞式で、会場からの質問に訳者のヒョン・ジェフンさんがそう答えていたから間違いないのだろう。

この独特な作品の雰囲気を受け入れられるか否か。それが、この作品に対する評価に直結する。作品世界に入り込めるか。受け入れられるか。もし、この世界観を楽しめることができなければ、おそらくその人はこの作品が読めないだろう。反対に、この世界観が肌に合わないとなると、本書を最後まで読み終えることはできないだろう。

本書は、決して読者に優しくない。むしろ、「俺の世界観について来れない奴は置いていくぜ!」という潔さがある。そして、そんな潔さをもった作品が、読者の指示を集めて、日本翻訳大賞を受賞した。その事実をもってしても、日本の翻訳小説の度量の広さを感じずにはいられないのである。