第1回日本翻訳大賞を受賞したパク・ミンギュ「カステラ」を読んだときの衝撃が再び。「ピンポン」を読み始めてすぐにそう感じた。「これはすごい」と。
本書は、パク・ミンギュが2006年に発表した長編小説だ。主人公であり物語の語り部の僕は、みんなから『釘』って呼ばれてる。いつもチスに頭をガンガン殴られてるから、その姿が釘を打ってるみたいに見えるから『釘』だ。釘と一緒にチスとその仲間にいじめられているのが『モアイ』で、なんで『モアイ』かっていうと、あるとき担任がモアイ像の写真を見せて「似てるなー」って言ったから。
釘とモアイは、原っぱの真ん中に卓球台を見つける。なんでそんなところに卓球台があるのかは知らない。でも、卓球台はそこにある。だからふたりはそこで卓球をする。〈ラリー〉って店で道具を揃え(釘はペンホルダータイプのラケット、モアイはシェイクハンドタイプのラケット)、その店の店主セクラテンから卓球の手ほどきを受ける。原っぱの卓球台でピンポンする。ピンポンピンポンピンポンピンポン。チスは姿を消した。すぐにチョンモって奴にいじめられるようになったけど、そのチョンモも事故って終わり。そんなことがあっても、釘とモアイは原っぱで卓球を続ける。ピンポンピンポン。そして、ふたりは最後に人類の存亡をかけた試合に挑むことになる。
「ピンポン」のストーリーを理路整然とわかりやすく説明するのは難しい。というか、たぶん無理だと思う。釘とモアイといういじめられっ子の中学生がいて、彼らが原っぱにあった卓球台でピンポンをする。彼らのピンポンは、この人類の存亡に関わる大事な試合へとつながっていく。
なんのこっちゃ?
と思うだろう。読んでいて私も思った。「ピンポン」を読んでいる間、ずっと頭の中には「?」が浮かんでいた。書いてあることがわからないということじゃない。エピソードもちゃんとわかる。でも、パッと全体を俯瞰したときに「?」となるのだ。それこそが、「ピンポン」という小説の面白いところ。パク・ミンギュという作家のすごいところ。
小説内に出てくる数々の設定もブッ飛んでる。
「ピンポン」には小説内小説として、ジョン・メーソンという三流作家の作品が2つ登場する。「放射能タコ」という作品と「ピンポンマン」という作品。三流に分類される作家の作品だから、内容のレベルは推して知るべし。ちなみにジョン・メーソンは、モアイの従兄のお気に入りの作家だ。
「カステラ」のレビューで私は、収録されている短編のタイトルからして人を食ったものになっていると書いた。「カステラ」に収録されている短編のタイトルはこんなものだ。
「ありがとう、さすがタヌキだね」
「そうですか? キリンです」
「どうしよう、マンボウじゃん」
タイトルからは内容が全然想像できない。それは「ピンポン」も同じで、各章のタイトルはやはり独特だ。
ピン
ポン
ま、誰かはおごってやったってわけだよな
皆さん、うまくやってますか?
奥さんを借りてもいいかな?
1738345792629921 対 1738345792629920
と、こんな感じ。やっぱり内容の想像がつかない。
そんなわけで、パク・ミンギュ「ピンポン」は変な小説だ。とっても変でとっても面白い小説だ。とっても面白くてとってもスゴイ小説だ。