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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ひとつひとつの作品が、どれも強く心に刺さる。これは、私の中で間違いなく今年のマイ・ベストにラインナップされる1冊となる-ケン・リュウ「紙の動物園」

書評 海外文学

たったひとつの言葉、たったひとつの文章、たったひとつの物語が、読んでいて深く胸に刺さる小説がある。

ケン・リュウ「紙の動物園」は、間違いなく読者に深く強い印象を残す小説だ。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

本書は、日本オリジナルの短編集である。全部で15篇の短編が収録されていて、そのどれもが読んでいて何かしら強い印象を残していく作品になっている。

表題作でもあり本書の冒頭に収録されている「紙の動物園」は、アメリカ人の父と中国人の母とその一人息子の物語だ。本作は、ネビュラ賞ヒューゴー賞世界幻想文学大賞のSF・ファンタジー系の文学賞三冠を同時に受賞するという史上初の快挙を達成している。

英語をほとんど話せない母親が、息子にしてやれること。それは、折り紙でつくった動物たちに命を吹き込み、息子の遊び相手にしてあげること。でも、息子は成長する中で、異国人である母親を疎ましく思うようになり、母親がつくってくれた紙の動物たちもいつしか箱にしまいこまれていく。母は、やがて重い病を患い命を落とす。母の死後、時が経ち、ふたたび紙の動物を手にとった息子は、そこに母のメッセージを見つける。中国語で書かれたそのメッセージは、息子の、そして私たち読者の胸に刺さる。

「紙の動物園」が描くのは、わかりあえない関係である。故郷から遠い異国の地の異文化に溶け込めない中国人の母親。そんな母親の気持ちを理解できない息子。わかりあえない関係性の中で、人々は暮らしていて、そこに生きている。

「紙の動物園」以外の作品にも、このわかりあえない関係性はところどころに存在するように思う。おそらくそれは、著者自身のアイデンティティが強く影響しているのだろう。

1976年生まれのケン・リュウ(中国名;劉宇昆(リウ・ユークン))は、中国で生まれ、子供の頃に両親と一緒にアメリカに渡ってきた。彼自身が、故郷を遠く離れた異国アメリカの地で生きてきて、様々な異文化に触れて成長をしてきた。その経験が、作品につながっているのだろう。

全15篇の中で、私のお気に入り作品を選ぶとすれば、次の3篇になる。

「紙の動物園」
もののあはれ
「文字占い師」

もちろん、その他の短編もすばらしい作品ばかりだ。どの作品を読んでも、きっと心に触れるものが感じられると思う。