タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち」シオドラ・ゴス/鈴木潤・他訳/早川書房-ジキル、ハイド、モロー、フランケンシュタイン、ラパチーニ。マッド・サイエンティストの娘たちがシャーロック・ホームズとともにヴィクトリア朝ロンドンで謎の組織の秘密に迫る!

 

 

「ジキルとハイド」、「フランケンシュタイン」、「モロー博士の島」、「ラパチーニの娘」、そして「シャーロック・ホームズ」。19世紀から20世紀初めに書かれた名作の数々は、今でもたくさんの読者に読まれています。

「メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち」は、これらの名作に登場する主人公の娘たちがシャーロック・ホームズとともにロンドンを恐怖におとしいれる連続殺人事件と、その裏にある謎の組織〈錬金術師協会〉の謎に迫っていくという作品。ホラーの要素、ミステリーの要素、ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にしたスチームパンクの要素が融合した作品です。本作は、〈アテナ・クラブの驚くべき冒険〉シリーズの第1作にあたり、以下第2作が「メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅰ ウィーン編」と「メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅱ ブダペスト編」、第3作が「メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ」となっています。

本作に登場するマッド・サイエンティストの娘たちとは、

「ジキルとハイド」のジキル博士の娘であるメアリ・ジキル。
同じく「ジキルとハイド」のハイドの娘であるダイアナ・ハイド。
フランケンシュタイン」のフランケンシュタインの娘であるジュスティーヌ・フランケンシュタイン
「モロー博士の島」のドクター・モローの娘であるキャサリン・モロー。
「ラパチーニの娘」のジャコモ・ラパチーニの娘であるベアトリーチェ・ラパチーニ。

といった面々です。彼女たちは、それぞれの父親と謎の組織との繋がりから、互いに惹きつけ合うように出会い、ときに反発しあいながら事件の謎に迫っていくことになります。

母アーネスティンを失ったメアリ・ジキルは、母が特別な口座を持っていて、そこから毎月1ポンドずつが聖メアリ・マグダレンに対して“ハイドの世話代”という名目で支払われていたことを知ります。

“ハイド”とは、かつての父の友人で、ダンヴァース・カリュー卿殺人事件の容疑者として追われているエドワード・ハイドのことではないか。ハイドの逮捕につながる情報の提供者には100ポンドの報奨金がでることになっていたはずと思い当たったメアリは、シャーロック・ホームズに事の次第を話し、ワトソン博士とともに、まずは聖メアリ・マグダレン協会を訪れることになります。しかし、そこにいたのはハイド氏本人ではなく、ハイドの娘ダイアナでした。

こうしてダイアナと出会ったメアリは、さらにベアトリーチェ、キャサリン、ジュスティーヌと出会い、彼女たちはメアリの家で暮らすことになります。そして、彼女たちの父親が関わっていた〈錬金術師協会〉とロンドンで起きている連続殺人事件の謎をシャーロック・ホームズとともに調査していくことになるのです。

名作の主人公やその息子、娘を登場人物として描く小説は、これまでも数多く書かれてきていますが、〈アテナ・クラブの驚くべき冒険〉シリーズほどオールスターキャストで描かれている作品は少ないかなと思います。これだけのキャストを、きちんとそれぞれに元作品での設定を踏まえて役割を与え、破綻なく物語を進行していくのは、かなり大変なのではないかと思います。

本作の面白い仕掛けは、マッド・サイエンティストの娘たちとシャーロック・ホームズが事件の謎に挑むというストーリーにあるだけではありません。本書は、キャサリン・モローが作家となって書いているという設定になっているのです。そして、執筆にはメアリやダイアナ、ベアトリーチェ、ジュスティーヌも参加していて、さらにジキル家で働いているミセス・プールやアリスも加わって、作中のところどころで作品にツッコミを入れていくのです。そのツッコミ部分が、作品のユーモア度を高めています。

連続殺人事件の謎が解決し、シリーズ第1作は幕を下ろすことになりますが、〈錬金術師協会〉の謎はまだ残されたまま、最後には新たな難題が〈アテナ・クラブ〉に降り掛かってきます。彼女たちは、新たな難題と向き合い、〈錬金術師協会〉の謎、彼女たちの父にまつわる謎を追って、ロンドンからヨーロッパへと舞台を広げていくことになるのです。

彼女たちがヨーロッパでどのような冒険を繰り広げるのか、〈錬金術師協会〉は何を企む組織なのか。まだまだ謎がひしめくシリーズ。続きを読むのが楽しみです。