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「メカ・サムライ・エンパイア」ピーター・トライアス/中原尚哉訳/早川書房-戦争に勝利した日本とナチスドイツがアメリカを東西に分割統治する架空世界で巨大ロボットメカがぶつかり合う歴史改変SFシリーズの第2弾

 

 

第二次世界大戦で日本がアメリカに勝利していた、という架空世界を舞台にした歴史改変SF「ユナイテッド・ステイト・オブ・ジャパン」。日本の読者の人気を得て、日本でもっとも古いSF賞である星雲賞を受賞した同作の続編となるのが、本書「メカ・サムライ・エンパイア」である。

メカ整備兵の父とメカナビゲーターの母との間に生まれた不二本誠(通称マック)は、テロで両親を失い養父母のもとで育てられた。メカパイロットのなることを夢見る彼だったが、バークリー陸軍士官学校(BEMA)の入試に失敗してしまう。失意の中、高校の校門前に配置された士官学校進学生徒向けのオリエンテーション用のメカの前に佇むマックだったが、そこで突如襲来したテロ組織NARA(アメリカ国民革命組織)のメカと戦い善戦したことで民間のメカ警備会社RAMDETの訓練生に推薦されることになる。訓練の成績次第では軍のメカパイロットになれる可能性もある。こうしてマックのRAMDETでの厳しい訓練生活がスタートする。同じ訓練生の仲間たちと切磋琢磨しながら訓練に明け暮れる日々を過ごし、卒業を果たしたマックたちは正式にRAMDETで勤務することになる。初任務で沈黙線と呼ばれるUSJが統治する西側とナチスドイツが統治する東側の間にある沈黙線と呼ばれる地帯への物資輸送の護衛任務に従事することになったマックたち新人隊員たちだったが、その任務中にNARAの襲撃を受けてしまう。さらにナチスバイオメガの攻撃も受けたマックたちの部隊はほぼ全滅。どうにか生き残ったのはマックと千衛子のふたりだけだった。

前作「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」は、巨大ロボットメカの登場する場面は少なく、全体としてはダークな雰囲気が漂っていたが、本作ではほぼ全編にわたって巨大ロボットメカにより戦闘シーンが描かれる。第二次世界大戦で日本とナチスドイツが勝利し、アメリカの西側を日本が、東側をナチスドイツが占領して分割統治しているという設定であり、両者は、歴史のリアルでいうとアメリカを中心とする西側諸国と旧ソ連を中心とする東側諸国のような冷戦状態にあって、沈黙線と呼ばれる緩衝地帯を挟んだ常に一触即発の状態にある。リアルな歴史の中では核兵器が米ソの緊張状態のバランスをとる存在となっていたが、USJシリーズの中でその役割を果たしているのが巨大ロボットメカということになる。USJナチスドイツは巨大ロボットメカの開発競争にしのぎを削っている状態だ。

こうした舞台設定の中で描かれるのは、不二本誠(マック)を中心とする若きメカパイロット候補生たちの成長ストーリーである。USJにおいて、軍人には確固たる地位がある。中でもメカパイロットは憧れの存在だ。本作では、メカパイロットたちの成長とその過程で起きる友情や愛情、相互にぶつかり合うライバル心といった青春の日々も描かれる。そして、そうした青春の日々さえも、USJナチスドイツとの一触即発な不安定な世界情勢の中で翻弄される。

全編にわたって巨大ロボットメカ同士の戦闘シーンや士官学校での訓練における対戦シーンが描かれており、前作で感じた物足りなさは本作では感じない。世界線としてはつながっているが、前作を未読で本作から読み始めても特に問題はないと思うので、地味でダークな小説よりも派手な戦闘シーンを楽しみたいという人は本書から読んでみてもいいんじゃないだろうか。登場人物も、一部で前作から引き続き登場するキャラクターもいるが、ストーリー上で直接に繋がっているわけでもないので、そこはあまり気にしなくてもいい。ただ、時折この人物は前作のあの場面で登場していた人物じゃないかと気づかされることもあるので、そういう気づきを楽しみたいならば「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」から順番に読むことをオススメする。本作に登場したキャラクターが次作のちょっとした場面でカメオ出演することもあるかもしれない。

USJシリーズは全3作。完結編となる次作「サイバー・ショーグン・レボリューション」では、いったいどのようなストーリーが展開されるのか。USJナチスドイツの対立構造にどのような進展がみられるのか楽しみである。