タカラ~ムの本棚

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加藤シゲアキ「チュベローズで待ってる~Age32」(扶桑社)-祝・第8回Twitter文学賞国内編第1位!確かに組織票かもしれないけど、作品として第1位で納得できます。

 

第一部にあたる「Age22」のラストで、愛人である斉藤美津子のバックアップを受けてゲーム会社「AIDA」の最終面接に臨んだ光太は、面接官である八千草たちからの圧迫面接を乗り切り就職を果たす。しかし、就職活動を支えてくれた美津子は彼の前から永遠に姿を消した。

第二部となる本書「チュベローズで待ってる~Age32」は、第一部「Age22」から10年後を描く。「Age22」は『週刊SPA』連載だったが、「Age32」は書き下ろしだ。

「AIDA」に入社した光太は、美津子と話していたアイディアをもとに体感型のアーケードゲーム「ゴーストタウン」を企画、開発。大ヒットを飛ばして社内でも一目置かれる存在となる。光太は、「AIDA」の子会社であり、かつて就職が叶わなかった子会社「DDL」に出向し、「ゴーストタウン」のスマホ版ゲーム開発プロジェクトに関わることになる。それは、就職試験の最終面接で彼と対峙した面接官でもある八千草の差し金でもあった。

「Age22」は、金平光太という負け組の青年が〈チュベローズ〉というホストクラブで働く中で、同じホスト仲間や店の客である女性たち、彼の恋人や家族との関係を通じて人間としての強かさを身に着け、生き馬の目を抜く世界で生き抜いていくための術を得ていく成長の物語であり、青春小説であった。

「Age32」は、「Age22」のストーリーを継承しつつ、硬派なビジネス小説としての一面も有している。と同時に、妹・芽々の失踪事件や美津子の自殺の謎をめぐるパワハラ疑惑、そしてラストに待ち受ける衝撃的な事実の露見に至るまで、あらゆるエンタメ小説の要素が詰め込まれている。

ビジネス小説としては、ゲーム業界でライバル会社との対立を軸に、ゲームが子どもたちに与える悪影響や身体的リスクも交えて描かれる。ゲームをプレイした子どもたちが健康被害を訴え、そのことを問題視したNPO法人がゲーム開発会社を告発する構図は、現実にも起きている。著者がどの程度リアルで発生した事例を取材したのかは不明だが、抗議を受けて社内対策会議が開かれる様子やあらゆる手をつくして原因を追求する場面にはリアリティがある。

「Age32」の中核となるストーリーは、斉藤美津子の自殺の真相と八千草という男に秘められた謎の解明である。光太の就職を見届けた美津子は自殺という道を選ぶ光太の前から消えた。自殺の理由は会社の金を横領したことへの悔悟とされた。しかし、美津子の甥ユースケは彼女の自殺の本当の理由を知りたいと光太に迫る。本当に彼女の自殺の理由は横領事件なのか。真実はどこにあるのか。美津子と八千草の間にはどんな関係があるのか。

真実をめぐる物語は残酷だ。美津子の自殺に隠された真実。彼女が光太に託した本当の希望。そして、八千草と美津子の間にある衝撃の事実。それは、ある意味で掟破りな物語でもある。この衝撃の事実と展開は好き嫌いがはっきりと分かれると思う。エンターテインメントとして評価する読者があれば、バカミス、バカSFとして評価する、あるいは酷評する読者もあるだろう。個人的な感想としては、ラストに待ち受けていたこの展開はとても楽しめた。面白かった。

3月3日に下北沢の本屋B&Bで行われた第8回Twitter文学賞の結果発表イベントに参加してきた。国内編の第1位に選ばれたのは、加藤シゲアキ「チュベローズで待ってる」だった。本作への投票に関しては、「Age22」のレビューにも書いたようにジャニーズファンによる組織票が存在し、そのファン票をもって300票以上の票を獲得した本作が結果的に第1位になったということになる。

「チュベローズで待ってる」が第1位となったことについては、賛否が分かれることだろう。以前からTwitter文学賞を大事にしてきたファンとしては、ただただ「シゲの本だから」という理由だけで票が投じられたことに嫌悪を感じる人もいるだろう。

だけど、今回はじめて加藤シゲアキという作家の小説を読んでみて、私は本作が第1位となったことに納得できた。むしろ、組織票に頼らなくても評価されたのではないかとさえ感じた。第1位は難しいかもしれないけれど、ある程度の票は得られたのではないかと思う。国内編ベストテンに入るのは可能だったんじゃないだろうか。

加藤シゲアキは、アイドルとして影響力の高い作家である。応援してくれる多くのファンがいる。今回、彼の作品がTwitter文学賞で第1位を獲得したことをきかっけに、彼を愛する多くのファンが、彼の小説だけではなく、他の小説にも手を伸ばしてくれるといいなと思っている。

 

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チュベローズで待ってる AGE32

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