タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ナチュラルボーンチキン」金原ひとみ/河出書房新社-ルーティンで生きるアラフォー女子とホスクラ通いの20代女子。不釣り合いなふたりが結びつくことで生まれる化学変化。

 

 

2004年にデビュー作でもある「蛇にピアス」で第130回芥川賞綿矢りささんと同時受賞した金原ひとみさん。綿矢さんが19歳で史上最年少受賞となり話題になりましたが、金原さんも20歳と若くしての受賞であり、ふたりの若い作家の受賞でとても盛り上がったことを覚えています。

受賞作である「蛇にピアス」や初期作品を数冊読んだきり、しばらく金原作品を読んでいませんでした。特に理由はありませんが、なんとなく手が伸びなかったという感じです。そんな私が十数年ぶりくらいに手に取ったのが、本書「ナチュラルボーンチキン」でした。

ナチュラルボーンチキン」は、物語の語り手にもなっている45歳の中年女性である浜野文乃と、文乃とは真逆にともすれば破天荒と眉をしかめられそうな20代の陽キャ女子である平木直理という性別以外は何もかもが違うふたりの登場人物が混じり合うことで生まれる化学変化が魅力的な作品です。

出版社の労務課で働く文乃は、毎日を決まったルーティンで生きています。

鶏、豚、牛のいずれかと、もやし、キャベツ、にんじん、玉ねぎのうちの二種か三種の組み合わせを炒めたものに、シャンタンかほりにしか焼肉のたれのいずれかで味付けしたものと、パックご飯一つが私の私の毎日の夕飯だ。

と語る文乃は、この決まり切ったルーティンの生活に対して、「逆に私にとってこれ以外のどんな生活があり得るのか、想像もつかない」ほどに慣れきっています。そんな文乃のルーティンは、同じ出版社で編集者として働く平木直理との出会い、親交を深めることで変化していきます。

直理はルーティンに生きる文乃とは反対に、自由奔放に自分の気持ちに正直に生きている女性です。ただ、直理の自由奔放さは、単純なわがままというわけでも、若さゆえの暴走というわけでもありません。ホストクラブ通いを楽しむなど破天荒な毎日を送っているようですが、羽目を外しすぎることはなく、ある程度は節度をもって楽しんでいます。直理と文乃という対照的な二人の交流を通じて、文乃の固定観念が揺さぶられ、新たな視点が開かれていくプロセスの面白さがこの作品の一番の魅力かと思います。

直理の勢いに押されるような形で文乃は、それまでのルーティンライフから新しい世界に足を踏み入れていきます。週2でランチに連れ回され、人気の中華ランチビュッフェを楽しんだりします。その夜、文乃は直理に誘われてライブハウスを訪れ、そこでバンド“チキンシンク”のライブパフォーマンスを目の当たりにして圧倒されます。そして、その夜にバンドのボーカルであるかさましまさかと知り合うことになります。文乃と直理、かさましまさかと同じバンドメンバーの金本を含めた4人の関係がユーモラスで、とてもリアルだなと感じました。

登場人物たちは、どれもキャラクター性が高いですが、でありながらその姿は等身大でリアルだなと感じました。頑なにルーティンを守ろうとしたり、ド派手なファッションで通勤し自分の気持ちに正直に生きたりする人は、どちらかというとマイノリティ側ではないかと思うのですが、本書を読んでいるとそうした一見するとデフォルメされたように思えるキャラクターたちも、不思議と現実的に思えて親近感を覚えてしまいます。

十数年ぶりの金原作品体験でしたが、初期の作品とは違う面白さがあって十分に楽しむことができました。初期作品には初期作品ならではの魅力がありましたが、作家生活20年を経て、様々な経験を得て書かれた本作もとても魅力的だと思います。これを機会に作品も読んでみようかと思いました。