昨年(2017年)その存在を知り、「ひかりのあめ」、「“少女神”第9号」と読んできて、物語の面白さと文章の美しさに魅了された作家フランチェスカ・リア・ブロックを少しずつ読んでいる。本書はリア・ブロック読書3作目。フランチェスカ・リア・ブロックがはじめて大人向けに書いたという短編集だ。
〈大人のために描いたベッドタイムストーリー〉とあるように、9篇の短編にはそれぞれに官能的な性愛が描かれる。セックス描写は、陳腐で生々しくなってしまうと一気に低俗なポルノ小説に成り下がってしまうものだが、リア・ブロックが描くセックスは、生々しさも含みつつ美しさを感じさせる。たとえば、冒頭に収録されている「海」という短編。主人公のトムが車椅子の少女メールと愛を交わす場面の描写はこうだ。
(略)緊張したトムの手にメールは手を絡めると、その手を胸に押しつけた。豊かでなめらかなふくらみに触れて、電気的なショックがトムを貫く。乳房はやわらかく、重く、興奮にうずいている。彼の指がその乳首に触れると、彼女は頭をのけぞらせて荒々しくうめいた。全身を痙攣させながら、彼女はトムの顔をやさしく左の乳房に押しつける。トムの舌が乳首を舐めまわすと、その身体はなおいっそう激しくもだえた。さらに強く身体を押しつけながら、彼女は大きく開けた口を彼の首筋に押しあてて、強く吸いついた。トムの呼吸はきれぎれになり、心臓は、水に溺れるときのように動悸を打った。荒々しくむきだした、日に焼けた胸に彼女が唇を這わせると、彼のコックは巨大にいきり立ち、海水をいっぱいにたくわえた。
「妖精たちの愛とセックス」は、ただ美しく官能的にセックスを描いているだけではない。9つの短編に描かれる登場人物たちの物語があったうえで、彼、彼女たちの抱える様々な物語と性愛が密接に絡み合うことで人間模様が描かれているのだと感じる。また、9つの短編はそれぞれに繋がっている。それぞれの短編は独立した物語として読めるが、登場人物が共通していたり、人物同士の関係性が描かれていたりしていて、全編を通じた大きな物語として読むことができる。
これで3作のリア・ブロック作品を読んできたことになる。YA小説、大人向け小説の区分には関係なく、リア・ブロックが描き出す物語は、その美しい描写と時代性を的確に取り込んだストーリー性が印象的だと、読むたびに感じる。日本では忘れられた作家になってしまっているが、こんな面白い作家がいるんだということは、これからもいろいろなところで宣伝していきたいと思う。