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「サイバー・ショーグン・レボリューション」ピーター・トライアス/中原尚哉訳/早川書房-USJシリーズ完結編。軍事クーデター革命によって樹立された新政権の行方と謎の暗殺者の正体を探る物語の結末に待ち受けるものとは

 

 

第二次世界大戦で日本とナチスドイツがアメリカに勝利し、アメリカを沈黙線を挟んで東西に分割統治しているという架空の世界線を舞台に描く「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」、「メカ・サムライ・エンパイア」と続くシリーズの第3弾にして完結編となる作品。

舞台となるのは2019年。かつてはシアトルと呼ばれていた太閤市において〈戦争の息子たち〉という集団が集会を開こうとしていた。〈戦争の息子たち〉は、山崗騰将軍を指導者に、日本合衆国(USJ)の政権打倒を目指す秘密組織であり、大日本帝国陸軍のメカパイロットである守川励子もそのメンバーに加わっていた。

〈戦争の息子たち〉は、少なからぬ犠牲を出しながらも多村大悟総督を暗殺し、山崗将軍が暫定総督に任命される。新政権樹立に成功した〈戦争の息子たち〉だったが、“ブラディマリー”と名乗る正体不明の暗殺者により、そのメンバーが次々と殺害されていく事態に陥る。守川励子は、特高課員の若名ビショップとともにブラディマリーの行方を追うことになる。

1940年代後半に第二次世界大戦が日本とドイツの勝利により終結してから70年ほどが過ぎ、沈黙線と呼ばれる中間地帯を挟んでUSJナチスドイツとの緊張状態は続いている。一方でUSJ政権内ではナチスと癒着が疑われる者も現れている。多村総督はその筆頭であった。ナチスとの対決姿勢を鮮明とする〈戦争の息子たち〉は、腐敗した政権を打倒するという共通の目的のために集結し、目的を果たす。しかし、多村前総督暗殺成功から100日の祝賀会の会場に紛れ込んでいたブラディマリーが参加者を次々と殺害し、玲子だけが生き残る。一方若名ビショップも、銃器密輸の容疑者を追跡中ヤクザに拉致されたところでブラディマリーの襲撃を受け、ヤクザたちが次々と殺される中ブラディマリーによって一人だけ生かされる。ブラディマリーは、自分の犯行の証言者としてひとりだけ生かす。玲子とビショップはその証言者に選ばれたのだ。

シリーズ第1作「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」で、1948年の終戦と、それから40年後、1988年のまだ混沌とする日本合衆国(USJ)を描き、続く第2作「メカ・サムライ・エンパイア」では、前作から少し時を経た1994年、沈黙線を挟んで緊迫するUSJナチスの敵対関係の中で皇軍のメカパイロットとして成長する若者の姿を描いた。そして本作。さらに時代は進み、2019年冬の〈戦争の息子たち〉による軍事革命から物語は始まり展開していく。

USJ3部作は、それぞれが独立した物語として書かれており、主人公となる登場人物はすべて異なっている。特高の槻野昭子のようにシリーズを通して登場するキャラクターもいるが、主役は物語ごとに別になっている。これは、USJ3部作のストーリーを構成するメインキャラクターが、特定の人物ではなく、USJそのものであるからだと思う。終戦から現代に至るまでのUSJの歴史が、このシリーズのメインストーリーなのだ。戦争に勝利したは、荒廃したアメリカ西側の地域を我が物として復興させていく。そのプロセスの中で、旧アメリカの復活を企てるテロ組織との戦いや沈黙線を挟んでにらみ合うナチスドイツの対決、対立が続く。大日本帝国という軍国主義社会の中で、若者は軍人を目指し、戦いの中に身を投じていく。だが、時が過ぎていく中で、USJも内部から腐敗が進み、そのことを憂う者たちによって組織された〈戦争の息子たち〉の軍事クーデター革命によって転換点を迎える。

こうした流れとしてシリーズ全体をみると、よく考えられた構成になっていると感じる。元からこうした全体構成として考えられていたのか、結果的にそうなったのか、それとも単純に私が的外れなことを思っているだけなのかもしれないが、個人的にはそうした“USJサーガ”的な読み方で楽しめた。

「サイバー・ショーグン・レボリューション」は、シリーズ完結編であるが、USJの歴史はまだまだ終わったわけではない。ブラディマリーの正体を探る玲子とビショップが最後にたどり着いた先にどのような決着が待ち受けているのか、〈戦争の息子たち〉の革命の真実とは。本書としてのラスト、シリーズ全体としてのラストをじっくりと味わえる作品だと思う。