タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「フランケンシュタインの工場」エドワード・D・ホック/宮澤洋司訳/国書刊行会-移動手段も通信手段も失われた孤島の研究所で起きる不穏な極秘実験と謎の連続殺人事件。短編ミステリーの第一人者が手がける奇想天外な長編SFミステリー

 

 

フランケンシュタイン』+『そして誰もいなくなった

フランケンシュタインの工場」の帯に書かれた惹句に思わず本書を手に取った。古典ホラー小説の代表的作品ともいえる「フランケンシュタイン」とミステリーの女王であるアガサ・クリスティーの代表的作品である「そして誰もいなくなった」。ホラーとミステリーがいったいどのような形で融合しているのだろう。

事件の舞台となるのは、バハ・カリフォルニア沖に浮かぶホースシューアイランドという孤島。ローレンス・ホッブス博士が設立し所長をつとめる国際低温工学研究所(ICI)がある。ホッブス博士は、この研究所で世にも恐ろしい実験を行おうとしていた。それは、冷凍保存されている複数の人間から、脳と臓器を外科的に摘出し、ひとりの人間の身体に移植することでその人間を蘇らせようというものだった。その実験のために集められたのは、骨の専門家のトニー・クーパー、化学者のヴェラ・モーガン、医師のエリック・マッケンジー、同じく医師のフィリップ・ウォーレンとハリー・アームストロング、脳外科医のフレディ・オコナーというスタッフたち。そこに、所長とホッブスとICIの大口支援者であるエミリー・ワトソン婦人、研究所の雑用を担うヒルダという聾唖のメキシコ人がいる。そこに、コンピュータ検索局から送られたのがアール・ジャジーンだ。アールは、今回の実験の記録・録画担当として研究所に潜入し、ICIの実態を探る役割を託されていた。

ホッブス所長が企んでいた極秘の実験は予定通りに行われ、“彼”が生み出される。心拍と脈拍が確認され、“彼”が生きていることが確認された。その夜に、エミリー・ワトソン婦人が研究所から忽然と姿を消してしまう。研究所がある孤島から移動する手段もなければ、通信手段すらないという状況でワトソン婦人はどこへ消えたのか。さらに、恐ろしい実験に関わった者たちが次々に殺害されていく。彼らを殺したのは誰なのか。まさか、実験でよみがえった“彼”がやったのか? 残された者たちは隔離された孤島の研究所で互いに互いを疑いながら、事件の真相を求めて行動を起こす。

複数の冷凍された人間の身体から脳や臓器を取り出し、別のひとりの人間に移植してよみがえらせるという恐るべき実験。そして、実験終了後に本土との移動連絡手段を失い海上の孤島となった研究所で発生する連続殺人事件。確かにこれは、かの有名な「フランケンシュタイン」と「そして誰もいなくなった」の融合体である。それだけのことだと言ってしまえばそれだけなのだろうが、それゆえにわかりやすく面白い作品であるともいえる。この作品をどう評価するかは読んだ人の問題である。私はとても面白く読んだ。

フランケンシュタインの工場」は、ミステリー作家のエドワード・D・ホックによるSFミステリー〈コンピュータ検察局〉シリーズの作品として刊行されたもの。本書の著者略歴によれば、短編ミステリーを数多く書いており、短編ミステリーの第一人者として知られている。本書は数少ない長編のひとつ。代表的なシリーズとしては、〈怪盗ニック〉シリーズや〈サム・ホーソーンの事件簿〉シリーズがある。

また本書は、ミステリー作家の山口雅也氏が製作総指揮をつとめる〈奇想天外の本棚〉叢書シリーズとして国書刊行会から刊行されたものである。“奇想天外”というワードは、この作品にぴったりだ。本書を叢書の一冊に選んだ理由について山口氏は、「【炉辺談話】『フランケンシュタインの工場』」と題する前書きで、山口氏とエドワード・D・ホックの“縁”について記し、またホックの没後に彼のビブリオグラフィーをみて数少ない長編作品の中で「フランケンシュタインの工場」だけが未訳のままとなっていることに気づいたためと記している。また、アマゾンUSAのレビューでは星1と酷評されていることも理由のひとつだとのこと。

アマゾンUSAにおけるユーザーレビューがどの程度信用できるのかは不明だが(日本のアマゾンのレビューは正直ほとんど信用できないものが多い印象)、酷評されているからこそ逆に読んでみたくなるというのもあるのはひとつの真実ではあると思う。先にも書いたが、私は面白く読んだ。まあ、大絶賛というほどではないし、みんな絶対読むべし!的にオススメするほどでもないかとは思うが。