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「チャンバラ」佐藤賢一/中央公論新社-60戦無敗!剣豪・宮本武蔵の戦いに焦点をあてた剣豪エンタメ小説!

 

 

宮本武蔵を題材にした作品は、小説、評伝、マンガ、映画、ドラマ、アニメなど、あるゆるメディアで数え切れないほど作られてきた。本書「チャンバラ」も、宮本武蔵を題材にした時代小説である。

本書が描くのは、宮本武蔵の戦いの記録である。幼少期の養父・新免無二足利将軍家兵法指南役をつとめる吉岡憲法の戦いからはじまり、有馬喜兵衛、秋山新左エ門、井上九郎右衛門吉岡清十郎吉岡伝七郎、吉岡一門、宍戸又兵衛、佐々木小次郎、そして養父・新免無二との対決と、宮本武蔵の戦いの日々が迫力満点で描かれる。

「兵法の道、二刀一流と号し、数年鍛錬の事、初而書物に顕さんと思ひ、時に寛永二十年(1643年)十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拝し、観世音を礼し、仏前に向ひ、生国播磨の武士、新免武蔵守藤原玄信、年つもって六十」

物語は、60歳となった宮本武蔵が細川家の客分に迎えられて3年後、岩戸山雲巌寺に入山し兵法書五輪書」を書き遺す場面から始まる。数え6歳、幼名を弁之助と称していた頃に、養父である新免無二足利将軍家兵法指南役の長たる吉岡憲法との御前試合を目の当たりにしたときから、13歳で兵法者有馬喜兵衛との果たし合いに勝利し、以来数々の激闘を繰り広げてきた宮本武蔵。そのすべての勝負に武蔵は勝利してきた。

武蔵の勝負は常に“真剣”勝負だ。負けることはすなわち“死”を意味する。だからこそ、武蔵はいかにして勝つかを考え、戦いに臨んできた。相手の力量を見極め、最善の手を尽くす。ときにそれは、卑怯とそしられることもある。だが、勝たなければ意味がない戦いにおいては、たとえ卑怯でもたとえ姑息でも、勝てばよい。その姿勢を貫いたからこそ、60戦無敗をなしえたのだ。

宮本武蔵の勝負としてもっとも知られる佐々木小次郎との巌流島の決闘。本書にもその戦いは収められている。しかも、佐々木小次郎との因縁や小次郎との勝負に至った背景、佐々木小次郎という人物を巡る第三者の思惑なども絡み合っていく。『宮本武蔵佐々木小次郎が巌流島で戦い、武蔵が勝利した』という史実をベースに、いくつかのイマジネーションで肉付けをして物語としての面白さを際立たせる。痛快や剣戟アクションにとどまらず、人間の持つ罪深さや人間関係の泥臭さが物語に深みを与えていると感じる。

宮本武蔵の人生は、まさに戦いに始まり戦いに終わった人生であった。戦国時代の末期から江戸時代に至る戦乱の時代に生まれ、終生戦いに生きた。そんな戦いに明け暮れる日々の中で、60戦以上無敗を誇り、晩年にはその戦いから得た極意を「五輪書」として書き残している。“剣豪”、“剣聖”とも称される武士道を代表する人物だ。

宮本武蔵の生涯を描く作品は数え切れないほどある。そんな中にあえて宮本武蔵を題材にした作品で勝負をかける。著者の意気込みはいかほどであったか。そして、宮本武蔵が生きた勝負の世界、宮本武蔵の戦いの日々に特化し、戦うことでしか己の人生を全うしきれなかった剣豪・宮本武蔵の生涯を鮮やかに浮かぶあがらせたこの作品の力強さよ。正直、宮本武蔵を題材にした作品はだいたいネタとしても出尽くした感があったのだが、本書は、まだまだ新しい宮本武蔵の物語が作れるということを示してくれた。最高の剣豪エンターテインメント小説だと思う。