タカラ~ムの本棚

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「MM9-invation-」山本弘/東京創元社-MM9シリーズ第2弾。日夜怪獣災害に立ち向かう気特対が今回対峙するのは宇宙怪獣!

 

 

地震や台風のように“怪獣”が自然災害として存在する世界を舞台に、世界有数の怪獣災害大国である日本で、怪獣から人々を守るために奔走する気象庁特異生物対策部、通称気特対の活躍を描く怪獣SF小説のシリーズ第2弾。前作は連作短編スタイルだったが、本作は長編である。

物語の軸となるのは、前作の第五話で神話宇宙の伝説の怪獣“クトウリュウ”を目覚めさせ、人間たちに怪獣の恐怖を植え付けることで妖怪という存在の記憶を留めさせようと画策した伊豆野とその仲間たち。そして、目覚めたクトウリュウとの戦いに勝利しビッグバン宇宙を守った巨大な少女の姿をした怪獣“ヒメ”である。その戦いから7年後の物語となる。

クトウリュウとの戦い後、ヒメは眠りについていた。クリプトビオシスと呼ばれる状態に入ったのだ。死んでいるわけではなく長い眠りについているだけ。しかし、いつ目覚めるのかはわかっていない。そんな状態にあるヒメは、つくばの研究所から別の場所へ移送されることになっていた。

本作で重要な役割を与えられているのが、前作でも登場した気特対のメンバーで物理学者の案野悠里の一人息子である案野一騎である。母から頼まれた忘れ物を届けに研究所に行った一騎は、〈気づいて〉という声を聞く。

ヒメの移送計画は極秘裏に実行に移されたが、その途中でどこからか突然飛来した青い火球が移送中のヘリに激突する。それと前後して一騎には、どこからか〈早く来て〉、〈あなたの助けが必要〉という少女の声が聞こえるようになる。一騎はその声に導かれるように霞ヶ浦を目指す。そこで彼を待ち受けていたのは、青く光る巨大なナメクジのような怪獣と、それと戦う巨大な少女の姿をした怪獣ヒメの姿だった。

こうしてヒメは目覚めた。そして、ヒメの身体には“ジェミー”という地球外生命体が憑依していた。一騎にテレパシーで語りかけていたのは、ヒメに憑依しているジェミーだったのだ。

前作では、地球上で発生する怪獣を相手にしていた気特対だが、本作では地球侵略を企むチルゾギーニャ遊星人が送り込む宇宙怪獣が相手となる。そのチルゾギーニャ遊星人の侵略を手助けしているのが、伊豆野たち妖怪一派なのだ。なぜ、チルゾギーニャ遊星人は地球侵略を企んでいるのか。その目的は。様々な謎が蠢く中、妖怪たちに導かれた宇宙怪獣は東京を目指して飛来する。この事態に気特対はどう対処するのか。そして、目覚めたヒメは宇宙怪獣との戦いに勝利し、地球を救うことができるのか。

前作が気特対メンバーを中心に人間が怪獣とどう対峙するかを描いていたのに対して、本作はヒメという正義のヒロインが宇宙から飛来し地球を狙う悪の宇宙怪獣と戦うという構図で描かれている。よりアクション性やエンタメ性が強くなった印象がある。また、ガチガチの怪獣パニックSF小説ではなく、高校生くらいの年代の少女の姿をしているヒメと、彼女と唯一テレパシーで会話できる一騎の掛け合いや、まだまだ恋愛経験のない思春期男子らしい女の子とのぎこちないやりとりなど、軽いタッチの恋愛要素もあったりする。ハードSFというよりもライトノベルを読んでいるような感じだ。

しかし、いざヒメと宇宙怪獣との戦いが始まれば、場面は一気にヒートアップする。周囲を瞬時に凍結させてしまう冷凍ビームを発する宇宙怪獣との一進一退の攻防。宇宙怪獣は、ジワジワと国家の中枢に向かって進撃を続ける。手に汗握る展開が続いていく。はたしてその結末は。ヒメは宇宙怪獣を倒し、日本を、いや地球を救うことができるのか。そして、チルゾギーニャ遊星人の地球侵略の目的とはいったいなにか。様々な謎を残したまま、物語はシリーズ第3部にして完結編となる「MM9-destruction-」への繋がっていく。

前作同様にところどころで著者の豊富すぎる知識や情報に、こちらの理解が追いつけない部分はあるが、全体を通してはとても楽しめるエンターテインメント小説だと思う。かなりの謎を積み残したまま本書はクローズしたので(チルゾギーニャ遊星人の目的はなにか、エピローグに登場した御星ひかるという少女は何者なのか)、これらの伏線が最終巻でどう回収されるのかも楽しみ。