タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「MM9-destruction-」山本弘/東京創元社-シリーズ第3弾にして完結編。チルゾギーニャ遊星人の地球侵略の魔手は最終段階に突入する。最終決戦に勝利するのはどっちだ!

 

 

地震や台風のように怪獣が自然災害として発生するという設定で描かれるシリーズの第3弾にして完結編。前作で宇宙怪獣との戦いに辛くも勝利したヒメと気特対。しかし、チルゾギーニャ遊星人による地球侵略の企てはまだ終わったわけではなかった。

宇宙怪獣との攻防に辛くも勝利した2日後、物理学者の案野悠里とその息子一騎、一騎の幼馴染の酒井田亜紀子、そしてヒメの4人(正確には3人と怪獣1匹)は警視庁警備部の護衛の下、茨城県内のある神社に向かっていた。そこで一騎たちを待ち受けていたのは、御星ひかるという美少女。彼女は、この神社の巫女にして荒ぶる神を鎮めるために選ばれし神の花嫁であった。そして、たった今ヒメの身体に憑依しているジェミーが、およそ100年も前に地球にきていたときに憑依していた相手でもあった。

前2作に比べて完結編となる本書は、ヒメ対宇宙怪獣という図式、チルゾギーニャ遊星人による地球侵略の目的といったアクション、エンタメ的要素は引き続き有しているものの、それを凌駕する勢いで日本の神話、世界の神話に関する情報がギッシリと詰め込まれている。人間が存在するビッグバン宇宙と怪獣が存在する神話宇宙、アマテラス神、カガミ様、ゴズ様といったかつて日本に君臨した神々のこと。本シリーズの世界観を構築するバックボーンとなる神話や歴史的エピソードがこれでもかと惜しげもなく注ぎ込まれているのである。その情報量に圧倒されすぎて、内容があまり頭に入ってこないくらいだ。

一方で、一騎とヒメ、亜紀子、さらにはそこにひかるも加えた思春期同世代(正しくは、同世代は一騎と亜紀子だけで、怪獣のヒメと神の嫁のひかるは違うのだが)の男女4人の関係は、性徴期特有のムズムズするような恋愛観とけっして叶うことのない異種間同士の感情が描かれていて、これはこれで、彼らの父親(もしかしら祖父?)世代の読者からするとなんともこそばゆく感じる。怪獣アクション、思春期の少年少女の複雑な恋愛観、そこに神話世界という情報が加わって、かなりカオスな印象を受ける。

地球侵略を企てるチルゾギーニャ遊星人は、一騎たちの居場所とひかるの秘密を知る怪獣学の権威稲本博士の記憶を盗み出し、彼らの居場所を突き止める。そして、攻撃を仕掛けてくる。チルゾギーニャ遊星人が送り込む巨大ロボットを思わせる宇宙怪獣に苦戦するヒメ。宇宙怪獣が放つ黒い液体に飲み込まれたヒメはそのまま身体を固められてしまう。そして、一騎たちはチルゾギーニャ遊星人の地球侵略を手引き妖怪グループによって身柄を拘束されてしまう。彼らの目的は、神の嫁であるひかるの純潔を奪うことで、日本を守る神々の出現の道を断つことだった。

クライマックスは、ラストの100ページほど。チルゾギーニャ遊星人が送り込んだMM9級の宇宙怪獣ギガントとヒメの姿から顕現したメドゥサ・アンドロメダとの対決。さらに、この対決の前には、日本を守るために目覚めたカガミ様とゴズ様が、宇宙怪獣メカコブラメカモグラと激しい死闘を繰り広げる。クライマックスシーンのボリュームがストーリー全体に対して少ないかなという気がするが、まあそこはご愛嬌というところだろう。

シリーズ全3作を通じてみれば、第1作の路線を引き継いだ作品になっていた方が面白かったんじゃないかと個人的には思うところ。神話の世界を取り入れるところが最初からあったので、著者の構想としてはこの形だったのかもしれない。

最後にチルゾギーニャ遊星人の地球侵略の目的についてだが、ネタバレになるのと、私の拙い説明でうまく伝わるか不安なので、気になる方は本シリーズを読んで確認してください。