タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「鋼鉄都市」アイザック・アシモフ/福島正実訳/早川書房-実はアシモフ作品を読むのは本書がはじめて。宇宙人殺害事件を人間とロボットのコンビが捜査するSFミステリーでした。

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2022年に入ってSF小説ばかり読んでいる。読んだのは「三体Ⅲ 死神永生」(まだレビュー書いてません。書かないかもしれません)、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」「ダリア・ミッチェル博士の発見と異変」「最後のライオニ」「男たちを知らない女」と、昨年から今年に翻訳出版された新刊ばかりだったので、同じSFでも次は古典といってもいいくらい古い作品を読んでみようと思い手にとったのがアイザック・アシモフ鋼鉄都市」だ。

SF読みにとってアイザック・アシモフSF小説のパイオニアと言ってよいレベルの存在だろう。『ロボット三原則』というロボットが従うべき原則を作品の中で提唱したのがアシモフである。

ロボット三原則
第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第1条に反する場合は、この限りではない。
第3条 ロボット、前掲第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
(「ロボット工学ハンドブック」第56版、西暦2058年より-「われはロボット〔決定版〕」早川書房所収)

ロボット三原則SF小説の世界を離れ現実のロボット工学にも影響を与えたとされている。

鋼鉄都市」は、宇宙人殺害事件をニューヨーク市警のイライジャ・ベイリと宇宙人側から派遣されたロボットR・ダニール・オリヴァーのコンビが捜査するミステリ小説である。

物語の舞台設定として、地球には代々地球に暮らしてきた人間と過去に宇宙に植民した人間の子孫である宇宙人がいる。人間と宇宙人の格差は大きく、また人間の中でも階級によって生活レベルに格差がある。巨大な鋼鉄都市に暮らし、人工的に生産された食料を配給されて暮らしている。

鋼鉄都市では、多くの仕事はロボットが行っている。ロボットに仕事を奪われた人間は、ロボットを嫌い、物質的優位に立つ宇宙人にも嫌悪感を持っている。それは、主人公ベイリも同様だ。警察署内で人間がロボットに仕事を奪われたことを苦々しく思っている、宇宙人に対しても信頼していない。

その中で、宇宙人が熱線銃で惨殺され、本部長のエンダービイからR・ダニール・オリヴァーとコンビを組んで捜査にあたるようにベイリは指示される。ベイリにとっては苦痛でしかないが、立場上しぶしぶ引き受けることになる。こうして人間とロボットがコンビとなって宇宙人殺害事件の捜査にあたるという状況が生まれる。

本書は、SF小説であると同時にミステリー小説でもある。アシモフは「黒後家蜘蛛の会」でミステリー作家としても作品を書いているし、本書もバディ物のミステリー作品として読み応えがある。信頼できない相棒(といってもベイリが一方的にロボットを嫌っているだけだが)とぶつかり合いながら事件の真相に迫っていくプロセスや、かつての地球を取り戻そうと人民を扇動する懐古主義団体の存在、ロボットに対する敵愾心をあらわにする人間たち。様々な要素が入り交じってストーリーが展開していく。そして、ラストには衝撃的な真相が明らかになり、ベイリとオリヴァーのコンビの行く末も明らかとなる。

現在の視点で読むと古めかしさを感じる部分はあるかもしれないが、アシモフの作品があったから今のSF作品が生まれてきたのだと考えると、パイオニアとなることの重要性と奥深さを感じてしまう。基本に立ち返るではないが、こうしたパイオニア的作品にふれることも読書の幅を広げるという意味では大切なことだと感じた。