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「Xに対する逮捕状」フィリップ・マクドナルド/好野理恵訳/国書刊行会-『世界探偵小説全集』の第3巻。偶然耳にした会話から浮かび上がる犯罪計画。見えない犯罪者にゲスリン大佐が迫るサスペンス小説

 

 

国書刊行会『世界探偵小説全集』の第3巻。著者はイギリスのミステリー作家フィリップ・マクドナルドで、アントニー・ゲスリン大佐を探偵役とする作品である。

アメリカ人の劇作家シェルドン・ギャレットは、自分が書いた芝居「賢者の休日」が公演されるロンドンにいた。9月のある日曜日、ロンドンの街を歩き回ったギャレットは、『ウィロー・パターン・ティー・ショップ』という喫茶店に入る。彼が店でお茶を飲んで一服していると、隣りの席の会話が耳に入ってきた。その会話から、ギャレットは何かの犯罪が計画されているのではないかと感じる。彼は、店を出ていったふたりの女を追うが途中で見失う。

「Xに対する逮捕状」は、まだ起きていない犯罪に対して、アントニー・ゲスリン大佐が推理と観察で迫っていくミステリー小説だ。「薔薇荘にて」「第二の銃声」とは違うサスペンスでスリリングな展開の小説になっている。

茶店で偶然に耳にした会話から犯罪の予感を感じたギャレットは、警察に相談するが相手にされない。落ちこむギャレットを連れてエイヴィス・ヴェリンガムは、ゲスリンの家を訪れる。ゲスリンは、ギャレットの話に興味を持ち、事件の調査を始める。ギャレットが盗み聞きした会話の断片や彼が追跡した女たちの足取り、『ウィロー・パターン・ティー・ショップ』に女が忘れていった買い物リストと思われるメモなどから、ゲスリンは女たちの素性やどのような犯罪が画策されているかを推理していく。

ゲスリン大佐の手足となって動くのは、彼が株の二分の一を保有する週刊評論紙「梟(アウル)」の記者フランシス・ダイソンとウォルター・フラッドのふたり。彼らはゲスリンの指示を受けて各地を歩き、聞き込みをし、結果を持ち帰ってくる。ゲスリンはその報告から推理を組み立てていく。また、必要な場合には自らが調査に出向くこともある。

調査が進むにつれて、さまざまな事実が明らかとなっていくが、そのことがギャレットたちを危険にさらすことにもつながっていく。ギャレットは、地下鉄の駅で線路に突き落とされそうになり、路上で何者かに殴打され負傷する。だがそえは、彼らが犯罪者を追い詰めていることの証でもあった。

ついには警察も捜査に乗り出し、犯罪者は確実に追い詰められていく。後半の展開が実にスリリングだ。犯罪者が企んでいる犯罪の内容も明らかになり、ゲスリンはある罠を仕掛けるが、そのことでエイヴィスを危険にさらすことになる。危険の迫るエイヴィスのもとへ車を疾走させる場面では、猛スピードでタイヤをきしませ、縁石に乗り上げながらカーブを切り、一気にアクセスを踏み込んでグングンと加速している描写が、まるで映画のアクションシーンを観ているような臨場感がある。巻末の解説によれば、著者のフィリップ・マクドナルドはハリウッドで映画のシナリオライターをしていたこともあるそうで、こういう映像が浮かぶような描写や読者を飽きさせないストーリー展開は、解説でも言及されているように「映画的手法もふんだんに取り入れられている」結果なのだろう。

まず何らかの事件が起こり、警察や探偵がその事件の謎を解明するというのがミステリー小説の基本的なパターンだとしたら、「Xに対する逮捕状」はそのパターンとは違うタイプのミステリー小説だ。今となっては、まだ起きていない事件を未然に防ごうと探偵役が奔走する小説はたくさん存在すると思うが、本書が書かれた当時(1938年)は新しいタイプのミステリーと受け取られていたのかもしれない。

これで『世界探偵小説全集』の3作品を読了した。まだまだ先は長いが少しずつ読んでいこうと思う。

 

s-taka130922.hatenablog.com

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