タカラ~ムの本棚

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「めんどくさい本屋」竹田信弥(本の種出版)-この『めんどくさい』にはいろいろな意味が込められている

 

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ときどき、「この人、いったいいつ寝てるんだろう?」と不思議に思う人がいる。竹田さんはそういう不思議な人の筆頭に位置している(私の中で)。

竹田さんは、赤坂にある『双子のライオン堂』という本屋の店主だ。本書「めんどくさい本屋」は、竹田さんの初の単著になる。「はじめに」で書かれているように、本書は本屋さんになるためのハウツー本ではない。竹田さんの一週間の生活。中学生の時の本との出会いから本屋を開くまでの話、会社員をしながら二足のわらじで本屋を続けていた頃の話。ひとりの本屋の店主が、どうやって本と出会い本屋を始め継続させてきたかが、実直に書かれている。

百年先にも本屋を残したい。
いつからか、そう思うようになっていた。

「双子のライオン堂宣言」の冒頭にはこう書かれている。双子のライオン堂を百年先にも残したい、ではなく本屋を百年先にも残したい、というところに竹田さんの「めんどくさい」ところが出ているな、と思う。もちろん、自分の店が百年先にも残っているのが理想なのだろうが、たとえ双子のライオン堂がなくなっていたとしても、『本屋』という存在は残っていてほしいと、竹田さんは真剣に考えている。そのために自分自身が、自分の店が、今そして未来にできることを考え続けている。

冒頭に書いたように、私は常々「この人、いったいいつ寝てるんだろう?」と思いながら双子のライオン堂のツイッターから流れてくるツイートをみている。「第0章 双子のライオン堂と店主の日常」では、ある一週間の店主の日常を記している。本屋を営みながらアルバイトを掛け持ちし、その合間を縫って神保町の『神田村』と呼ばれる取次店で仕入れをする。双子のライオン堂ではほぼ毎週のように読書会が開催されているから課題本も読むし、書評用の本も読んでいる。数年前からは出版業にも力を入れていて、年一回のペースで「しししし」という文芸誌を刊行している他、西島大介さんの本や室井光広さんの本も出版している。寝るひまどころか休むひまもないのでは、というくらい働いている。

これだけ精力的に動けるのは、竹田さんがこの状況を楽しんでいるからだと思う。しんどいときもあるとは思うが、それ以上に楽しいときが勝っているのだと思う。それは、本書を読んでいるとすごく伝わってくる。「めんどくさい!」といろいろなことを放り出したくなるときはないのだろうかと思うが、きっとそういう気持ちになることはなくて、この「めんどくさい」状況が楽しいのだろう。

私がこの本で、面白くて共感ポイントが多かったのは、「双子のライオン堂の読書会」と題する、お店に縁の深いメンバーによる「双子のライオン堂ってどんな店なの?」「店主ってどんな人なの?」を語り合う座談会だ。この座談会パートを読むためだけでも、この本を買う意味がある。(他のパートも面白いですよ)

田中佳祐さん、松井祐輔さん、中村圭佑さんに加えて店主の竹田さんによる座談会では、第三者からみた双子のライオン堂、第三者からみた店主の姿が伺える。メンバーが互いをよく知っているから、「店主は御本尊でマスコット」とか「100年続く本屋だから、みんな突っ込む」みたいな話がポンポン飛び出してくる。また、4人は文芸誌「しししし」編集メンバーでもあるので、そこにまつわるエピソードも興味深い。

座談会の中で松井さんがこんな話をしている。

松井 ライオン堂は、棚をつくり込まないじゃないですか。それはすげえなと思ってて。
(中略)
松井 毎日変わることによって、整えてるのは分かるんだけど、本屋的な、分類的な整理が示されていない。

私が一番共感したポイントはここだった。双子のライオン堂に行ったことがある人はわかると思うが、松井さんの言うようにライオン堂の棚はかなり雑然としている。本がとっちらかってるという意味ではない。どこにどんな本があるのかが予測不能なのだ。だから、店に行くと毎回じっくりと棚を見たくなるし、前回と違っているところを見つけると「そうきたか」とニヤけてしまう。決まった本を買いに行くというよりは、人の家の本棚をのぞきに行くみたいな感じだ。

だから何回も通いたくなるんだな、と思う。

新型コロナの影響で現在(2020年5月24日時点)で、双子のライオン堂は休業状態にある。でも、その間も竹田さんは精力的にいろいろなことを仕掛けてきている。オンライン書店「幻影書店街」を立ち上げ、6月にはオンライン上でZINEや同人誌を販売する「書物の変」も開催する。本屋もアルバイトも休業状態なのに、相変わらずいつ寝てるのかわからない笑

緊急事態宣言が解除され、休業要請や外出自粛要請が緩和されれば、近い内にお店も再開されるだろう。再開されたらお店に行って雑然とした棚をじっくり眺めたいし、読書会にも参加したい。なにより竹田さんと話がしたいと思っている。

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