タカラ~ムの本棚

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「見えない凶器」ジョン・ロード/駒月雅子訳/国書刊行会-『世界探偵小説全集』の第7巻。密室で起きた殺人事件。凶器が見つからないまま迷宮入りするかと思われた事件をプリーストーリー博士が解き明かす

 

 

国書刊行会の『世界探偵小説全集』の第7巻。本作は、密室殺人のトリックに趣向を凝らした謎解きミステリーである。

アダミンスター警察署のクロード巡査部長は、シリル・ソーンバラ医師の自宅で殺人事件に遭遇する。ソーンバラ医師の妻ベティの伯父ロバート・フランシャム氏が頭部を殴られたような状態で殺されたのだ。現場となった洗面所は、内側からドアに鍵がかかっており、窓には鉄柵があって誰も入り込むことができない密室だった。しかも、フランシャム氏を殺害した凶器がどこからも見つからないのだ。いったい、氏はどのような方法で殺害されたのか。警察は、ソーンバラ医師を重要容疑者と考えるが、密室殺人の謎が解けなければ逮捕することができない。スコットランド・ヤードのジミー・ワグホーン警部は、見えない凶器を求めて捜査を続けるが、解決の糸口も見えず、事件は迷宮入りの様相を呈してくる。

ジョン・ロード「見えない凶器」は、殺人に使用された凶器は何か、どのような方法で犯行が行われたのかを解き明かす『ハウダニット』と、誰がフランシャム氏を殺した犯人なのかを解き明かす『フーダニット』の要素をあわせ持つミステリー小説である。探偵役となる元ロンドン大学数学教授のランスロット・プリーストーリー博士は、犯罪の解明を趣味としていて、秘書のハロルド・メリーフィールドやスコットランド・ヤードの警察官たちを使って事件を捜査し謎解きをする。

フランシャム氏殺しの謎の解明にプリーストーリー博士が乗り出す中、チェヴァリー街三番地でゴドフリー・ブランストック卿が、地下のワインセラーに死んでいるのが発見される。死因は窒息死で、隣接するチェヴァリー四番地の地下室から流れ込んだ二酸化炭素が充満したことがその原因と思われた。そして、そのチェヴァリー街四番地は、フランシャム氏が暮らしていた場所だった。

無関係と思われたふたつの死亡事件が、ある共通項によって一連の関連する事件と判明し、事件の全貌が明らかになっていく展開は、謎解きミステリー小説の王道といえる展開ではないだろうか。意外性のある凶器も、アリバイトリックも、物語の中に散りばめられた伏線を巧みに回収して結論を導き出していくプリーストーリー博士の推理は、元数学教授の研究者というキャラクター設定もあって、論理的である。また、いかにも理系学者らしい堅苦しさ気難しさもあって、そこも個性的だ。

フランシャム氏殺しに使われた凶器の真相に納得できるかどうかは、読者次第かもしれない。私自身は、物理的な凶器という意味では納得できるところはあったが、その凶器を使用した殺害方法(使用した道具)については、「そこまでうまくいくのかな?」という疑念を覚えた。また、意外性のある凶器以外の部分で犯人の詰めが若干甘いようにも思えた。

国書刊行会の『世界探偵小説全集』シリーズも、第一期10巻も第7巻まで読んできて、古典的な探偵小説にもだいぶ慣れてきた気がする。まだまだ先は長いのでゆっくり少しずつ読み進めていきたい。