タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「コピーボーイ」ヴィンス・ヴォーター/原田勝訳/岩波書店-大切な人との約束を果たすため、ヴィクターはひとり旅に出る。

 

 

ニュースの伝え手よ、目的地ばかり見ようとするな。そこまでの旅に常に目を向けよ。

ヴィンス・ヴォーター「コピーボーイ」は、吃音の少年ヴィクターのひと夏の経験を描いた「ペーパーボーイ」から6年後の物語だ。

17歳になったヴィクターは、メンフィス・プレス・シミタール新聞でコピーボーイとして働いている。コピーボーイとは、いわば雑用係。記事の切り抜き、糊の補充、タイプライターのインクリボン交換、テレタイプ受信機からの記事の回収、といった仕事をこなす。朝4時には出社しなければならないが、ヴィクターはこの仕事が気に入っていた。

ある日、彼はある死亡記事をみつける。それは、あの夏の日、彼を成長へ導いてくれた大切な人コンスタンティン・スピロさんの死亡記事だった。

前作「ペーパーボーイ」を読んだ方は覚えているだろう。ヴィクター少年にとってスピロさんがどれほど大切な人であったか。吃音でうまく話すことができない少年を優しく受け入れ、大人としての道を示してくれたのがスピロさんだった。スピロさんからもらった4等分された1ドル紙幣には、彼が成長するために必要な4つのSが記されていた。

Student(学ぶ者)
Servant(尽くす者)
Seller(商う者)
Seeker(探し求める者)

ヴィクターは、スピロさんと特別な約束を交わしていた。それは、スピロさんが死んだら、彼の遺灰をミシシッピ川の河口にまく、という約束だ。ヴィクターはその約束を果たすために、たったひとりでメンフィスからニューオーリンズへの旅に出る。「コピーボーイ」は、ヴィクターの旅と出会いの物語なのだ。

大切な人との約束は絶対に果たさなければいけない。ヴィクターはその思いで行動に出る。そして、たくさんの人たちと出会う。6年前にスピロさんと出会った成長したように、ニューオーリンズへの旅の中でヴィクターは人との出会いを通じてさらに大人への道を歩んでいく。

「ペーパーボーイ」が、自らの内に閉じこもっていたヴィクターの心の扉を開く物語であるならば、「コピーボーイ」はヴィクターがさらに広い世界に向けて自らを解き放つ物語である。この連続する2作の物語は、ヴィクター少年の成長であると同時に私たち読者の成長にもつながる物語だと感じた。少年が青年となり、またひとつ大人への階段を昇っていく。成長とは自分と真摯に向き合うということであり、そのためにたくさんの出会いがあり、たくさんの経験を必要とする。その出会いと経験へ導くのが、大人たちの役割なのだ。

冒頭に記したのは、本書の後半で登場するスピロさんの言葉だ。この旅でヴィクターはスピロさんがなぜ自分と「遺灰をミシシッピ川の河口にまいてほしい」という特別な約束をしたのか、という問いへの答えをみつけることになる。その答えに気づいたときに、スピロさんが与えてくれた4つのSやスピロさんの残した言葉の数々が大きな意味を持っていることに気づく。

前作「ペーパーボーイ」を読んだときに、自分はスピロさんのような大人になれているのだろうか、と感じた。それほどに、スピロさんは偉大な人に思えた。あれから3年が過ぎ、本作「ペーパーボーイ」を読み終えて、なお私は自分に問いかけている。私たち大人は子どもたちの良き見本となれているのだろうか。良き理解者となれているのだろうか。良き導き手になれているのだろうか。

おそらく私はスピロさんのような大人にはなれていない。でも、子どもたちから見て恥ずかしくない大人にはなれていると思いたい。

本書は、岩波書店の海外YA叢書『STAMP BOOKS』シリーズの一冊。このシリーズから刊行されている作品は、良質な作品がたくさんあるので(前作「ペーパーボーイ」も同じ叢書シリーズ作品)、幅広い年代の人たちにオススメしたい。新型コロナによる外出自粛で家にいる今、手にとってほしいと思う。

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