タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

岸本佐知子、今村夏子他「たべるのがおそいvol.5」(書肆侃侃房)-特集は『ないものへのメール』。岸本佐知子さんや今村夏子さんの創作も面白いですが、個人的には澤西祐典さん、大田陵史さんの作品でした。

つい先日(2018年10月)にvol.6が刊行された文学ムック「たべるのがおそい」ですが、こちらはvol.5のレビューになります。刊行されてすぐに読んでいたのですが、レビューを書き忘れていました。あらためて読み直して書いています。

vol.5の目玉は、翻訳家岸本佐知子さんのはじめての創作「天井の虹」です。岸本さんが訳される作家(ジャネット・ウィンターソン、リディア・デイヴィスなど)の作品、岸本さんのエッセイ(「ねにもつタイプ」「なんらかの事情」など)とも近いような、それでいて独創的な作品になっています。

すっかり「たべおそ」の常連作家になった気がする今村夏子さんは、これまでの作品同様に今回も独特な作品「ある夜の思い出」が掲載されています。無職で引きこもりの女性が主人公の作品は、怠惰なあまりに腹ばいで生活するようになった彼女が経験した不思議な一夜の出来事を振り返って記した形の物語なのですが、その“不思議な出来事”がなんとも奇妙で、ちょっと不気味な出来事なのです。

岸本さん、今村さんの作品もとても面白いのですが、個人的に印象に残ったのは「文字の消息」がとても印象的だった澤西祐典さんの創作「雨とカラス」と、公募作品から掲載された大田陵史さんの「地下鉄クエスト」でした。

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澤西さんの「雨とカラス」は、無人島と思われていたメラネシアのある小島で二十代半ばと思われる若い男性が救出されるところから始まります。彼(望月タダシ)は、この小島に漂着した旧日本軍兵士の祖父と従軍看護婦だった祖母の子孫であることがわかり、物語は彼とその一族の小島での生活と人生を描いていきます。元帝国軍人であった祖父の厳しい教えであったり、近親相姦によって生まれた兄弟たちの数奇な運命にグイグイと引き込まれる作品です。

公募から選ばれた作品が2篇(大田陵史「地下鉄クエスト」、斎藤優「馬」)掲載されていますが、個人的には大田陵史さんの「地下鉄クエスト」のユーモラスな物語に惹かれました。深夜の地下鉄に取り残された人を無事に地上へ送り返す仕事“SOS大東京探検隊”というある意味でバカバカしくもある設定は、読んでいて気楽になれます。地下鉄路線でしか営業していない神出鬼没のラーメン屋台で供されるラーメンが美味しそうです。

その他、特集の『ないものへのメール』には、柴田元幸さん、大前粟生さん、黒史郎さん、蜂飼耳さんが寄稿しています。編集長の西崎憲さんは、フラワーしげるとしての短歌、翻訳家としてエリザベス・ボウエン「ジャングル」が掲載されています。

紹介していない作品も含め、掲載されている作品はどれも面白いと思います。毎号毎号必ずなにか新しい発見がある「たべるのがおそい」です。vol.5のレビューも書けたので、最新vol.6を読み始めようと思います。

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文学ムック たべるのがおそい vol.1

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文学ムック たべるのがおそい vol.2

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文学ムック たべるのがおそい vol.3

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文学ムック たべるのがおそい vol.4

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文学ムック たべるのがおそい vol.5

文学ムック たべるのがおそい vol.5

 
文学ムック たべるのがおそい vol.6

文学ムック たべるのがおそい vol.6