タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2014-01-01から1年間の記事一覧

こんな傑作が絶版で入手できないなんて!-キャサリン・ダン「異形の愛」

まず、最初に言っておきたい。どこの出版社でもいい、本書を復刊して欲しい。そのくらいの傑作だ。 異形の愛 作者: キャサリンダン,Katherine Dunn,柳下毅一郎 出版社/メーカー: ペヨトル工房 発売日: 1996/07 メディア: 単行本 購入: 4人 クリック: 282回 …

【不在】が指し示す【実在】とは何か-青木淳悟「私のいない高校」

青木淳悟の小説「私のいない高校」は極めて実験的な小説である。ポイントは本書のタイトルだ。 私のいない高校 作者: 青木淳悟 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011/06/14 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 47回 この商品を含むブログ (40件) を見る …

読んでなくても大丈夫!はったりをかまそう!-ピエール・バイヤール「読んでいない本について堂々と語る方法」

本は読まれてこその本である、とは誰の言葉であろうか。ま、そんなことを言った人なんていやしないのだけど、やっぱりせっかくの本はキチンと読みたい。でも、世の中には仕事柄古今東西の名作、珍作を大量に読む必要に駆られる人もいる。例えば文学を専門と…

東西冷戦時代の宇宙開発狂騒曲-ヴィクトル・ペレーヴィン「宇宙飛行士オモン・ラー」

現代ロシア作家の一人であるヴィクトル・ペレーヴィンによる旧ソビエトを舞台にしたSF中編。 宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー) 作者: ヴィクトルペレーヴィン,尾山慎二 出版社/メーカー: 群像社 発売日: 2010/06 メディア: 単行本 購入: 4人 ク…

鬼才を父に持つ才女-中島さなえ「いちにち8ミリの。」

鬼才中島らもが突然にこの世を去ったのは2004年7月だった。今年(2014年)は、彼の没後10年にあたる。 いちにち8ミリの。 双葉文庫 作者: 中島さなえ 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2014/04/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る いちにち8…

この気持を届けよう。深夜放送の電波に乗せて-さだまさし「ラストレター」

それでは、本日のラストレターをご紹介しましょう。千葉県にお住まいのペンネーム・タカラ~ムさんからのお葉書です。 ラストレター 作者: さだまさし 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2014/09/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 寺ち…

原発問題、非正規雇用、ブラック企業。時代の閉塞感が苦しい-木村友祐「聖地Cs(セシウム)」

東日本大震災による福島第一原発事故で、原発から半径20キロ圏内は立ち入りが制限された。その後、少しずつ制限区域は少なくなっていき、原発よりも南側の地域では、自由に立ち入り可能な場所もある。その反面、まだ広い範囲で立ち入り制限されている場所も…

今年開業50周年。新幹線を舞台にしたパニック大作-映画「新幹線大爆破」

日本が世界に誇る夢の超特急・新幹線は、今年(2014年)に開業50周年を迎えた。そんな新幹線を舞台にした映画が1975年に公開された「新幹線大爆破」である。 新幹線大爆破 [DVD] 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) 発売日: 2013/11/01 メディア: D…

バスヴィルの犬は本当に悪魔の犬なのか?-ピエール・バイヤール「シャーロック・ホームズの誤謬 「バスカヴィル家の犬」再考」

以前にアップしたアクロイドを殺したのはだれかで、エルキュール・ポワロの推理の誤りを分析してみせたピエール・バイヤールが、シャーロック・ホームズの名推理にも疑義を唱えたミステリ評論である。 シャーロック・ホームズの誤謬 (『バスカヴィル家の犬』…

アニメに対する情熱があり、作品は生まれていく-辻村深月「ハケンアニメ」

アニメは好きですか? 日本のアニメは、世界でも高く評価されていて、日本を代表する文化的コンテンツになっている。毎年開催されるアニメショーには海外からの参加者も多いし、10月に開催された東京国際映画祭でもアニメーションが相当にフィーチャーされて…

本を読む楽しさをもう一度考えてみたくなる-玉川重機「草子ブックガイド(1)」

長いこと読書を習慣にしてくると、いつの間にか機械的に本を読んで、数をこなしていくことに重きを置くような読み方をするようになってしまった感じがしてくる。いつの間にか、“読書を楽しむ”ということを忘れてしまったのではないか。 草子ブックガイド(1) …

駅に降り立てば~それですべてを~忘れられたらいいね~-エクスナレッジ「世界で一番美しい駅舎」

駅というのは物語に溢れた場所である。ある者は、都会での生活に期待を膨らませて都会の駅に降り立つ。ある者は、都会での生活に敗れ、疲れた身体と心を癒やすために故郷の駅に降り立つ。 世界で一番美しい駅舎 出版社/メーカー: エクスナレッジ 発売日: 201…

食を求めて街をゆく、これぞ野武士の美学-久住昌之「野武士のグルメ」

個人輸入業を営む井之頭五郎が、客先や取引先を訪問したあと、その街でうまいメシを求めさまよい、ひたすらに食べる。そんな中年男のひとり飯を描いた「孤独のグルメ」が、テレビドラマ化されてシーズン4まで続くシリーズになると誰が想像したであろうか。 …

灰色の脳細胞にも推理の誤り?-ピエール・バイヤール「アクロイドを殺したのはだれか」

【ネタバレ注意!】今回のレビューでは、アガサ・クリスティ「アクロイド殺人事件」の内容についてネタバレを含む記述がありますので、同作を未読の場合は以下の記事を読まないようにね! 「アクロイド殺人事件」といえば、ミステリー界の女王アガサ・クリス…

空に憧れ、空を目指した男の物語-飯嶋和一「始祖鳥記」

かつて、人は大空に憧れていた。空を自由に飛ぶ鳥を見て、自らも空を飛ぶことを夢見た。だが、それを実現するのは至難の業であり、それを試みた多くの冒険者の命が失われた。 始祖鳥記 (小学館文庫) 作者: 飯嶋和一 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2002/11…

子供から大人へ、成長の階段、性徴の差異-村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」

村田沙耶香の三島由紀夫賞受賞作。その特徴的なタイトルは本書を読み進めていくと真意がわかる。 しろいろの街の、その骨の体温の 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2012/09/20 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ…

パトラッシュ、ハチ公のご主人は戻ってきたかい?-飯田操「忠犬はいかに生まれるか-ハチ公・ボビー・パトラッシュ」

犬、飼ってますか? 犬は人間に従順なペットである。そのため、犬が飼い主に忠節を尽くすというエピソードは、古今東西、フィクション/ノンフィクションの区別を問わずに数多く存在する。 忠犬はいかに生まれるか―ハチ公・ボビー・パトラッシュ 作者: 飯田…

きみは赤ちゃん、母は女神様-川上未映子「きみは赤ちゃん」

女性って本当に大変なんだなぁ~、というのは率直な感想です。この大変さは、男には絶対に理解できないと思います。 きみは赤ちゃん 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2014/07/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (15件) を見る …

体制に抗い続けた作家の痛烈な皮肉-ダニイル・ハルムス「シャルダムサーカス」

ダニイル・ハルムスは弾圧された作家である。1930年代に多くの作品を書き表したハルムスは、その作風がソビエト共産党当局から危険視され、1941年には逮捕、拘束されたのち、そのまま1942年に死亡した。死因は餓死であるとされている。 シャルダムサーカス …

旅は道連れ?作家2人の海外珍道中-高木彬光、山田風太郎「風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行」

日本ミステリー界の重鎮である高木彬光(1920~1995、代表先「刺青殺人事件」、「白昼の死角」等)と山田風太郎(1922~2001、代表作「魔界転生」、「警視庁草紙」等)。二人は、デビュー時期も近く年齢も近いことから互いに交流に深めていた間柄。そんな二…

言葉はなくとも気持ちは伝わる-ショーン・タン「アライバル」

「まっくら、奇妙にしずか」について書いた中で言及しておきながら本書の感想をアップしていませんでしたので、慌ててアップなう(笑) アライバル 作者: ショーン・タン,小林美幸 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2011/03/16 メディア: 大型本 購入:…

モノクロームの静謐な世界-アイナール・トゥルコウスキィ「まっくら、奇妙にしずか」

ある日、どことも知れぬ海辺の町にひとりの男が現れて、町はずれに住みつく。 町の住人たちは突然現れた余所者の男を遠巻きに観察しつつ、しかし、決して近づこうとはしない。 やがて、男が町に魚を売りに来るようになる。 住人たちは男から魚を買うことはし…

芭蕉の足跡を辿りつつ、ちょいと一献-太田和彦(著)、村松誠(画)「居酒屋おくのほそ道」

江戸時代初期、俳人・松尾芭蕉は、弟子の曾良を連れて東北地方への旅に出た。松島、山形、奥州平泉を歩き、その記録と彼の地で詠んだ俳句をまとめたのが「奥の細道」である。 居酒屋おくのほそ道 (文春文庫) 作者: 太田和彦,村松誠 出版社/メーカー: 文藝春…

旅先でふらりと入る地元居酒屋に憧れるなぁ~-太田和彦「ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇」

本書は、日本全国の居酒屋を巡り歩く居酒屋紀行エッセイシリーズの第三弾になります。第一弾は立志編、第二弾は疾風編です。 ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫) 作者: 太田和彦 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2001/11 メディア: 文庫 購入: 2人 ク…

人間、しっかり食べてれば頑張れる!-柚木麻子「ランチのアッコちゃん」

先日、柚木麻子さんが登壇するトークイベントに行ってきた。ちょうど、シリーズ続編にあたる「3時のアッコちゃん」が発売された日で、トークテーマは「本を味わう」と題して、料理やお菓子が登場する本を柚木さんともうひとりのゲスト(パンとお菓子の研究…

映画が最大の娯楽だった時代、なんでもありのアナーキズム-「鮮烈!アナーキー日本映画史1959-1979」

まず表紙になっている若かりし頃の加賀まりこのコケティッシュな魅力にグッと心を掴まれる。そして、裏表紙には坂本龍馬に扮した原田芳雄が、短銃を構えてニヒルな笑みを浮かべる。もうそれだけで、60年代~70年代の日本映画の華やかさが目に浮かぶようでは…

こじらせ男子の妄想全開。その先にあるのは?-ロバート・クーヴァー「ユニヴァーサル野球協会」

いつの時代もいくつになってもこじらせちゃう人ってのはいるもんでしてね。 ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス) 作者: ロバートクーヴァー,越川芳明 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2014/01/18 メディア: 新書 この商品を含むブログ (12件) を見る 本…

チャレンジャーだなぁ~-菅野彰・立花実枝子「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」

どんな町にでも、「この店、営業してるのか?」と疑問に感じる店が1軒はあるものだ。「こういう店こそ、実はうまいんだよ」と通ぶって語る人もいるが、そういう人に限っていざ、「じゃ、入ってみる?」と水を向けると尻込みしたりする。この本は、そういう“…

そして、物語は完結する-ダン・シモンズ「エンディミオンの覚醒」

全4巻に及ぶ長大なハイペリオンシリーズの最終巻である。シリーズの大団円を迎え、これまでに示されてきた謎の大部分がクリアになっていく。 エンディミオンの覚醒〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ダンシモンズ,Dan Simmons,酒井昭伸 出版社/メーカー: 早川…

今回は映画の話-実写版「ルパン三世 念力珍作戦」

今年、実写版の「ルパン三世」が劇場公開された。 小栗旬がルパンを演じ、黒木メイサの峰不二子、玉山鉄二の次元大介、綾野剛の石川五エ門、浅野忠信の銭形警部と配役陣も豪華。監督は、アクション映画に定評がある北村龍平で、本作でもアクションシーンが見…