タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ティム・ヘイワード/岩田佳代子訳「世界で一番美しい包丁の図鑑」(エクスナレッジ)-切って良し、刺して良し、刻んで良し。見よ、この美しき包丁の世界!

キッチンの照明を反射して妖しく煌めく刀身。その切っ先はあらゆるものを突き刺し、深く深く潜り込もうとするかのように鋭く尖っている。刃の根元から素材にあてがってスッと引けば、薄く削ぎ落とされた肉片がはらりと落ち、その断面には薄っすらと脂が光る。相手は我が身が切られていることにも気づきもしない。

「世界で一番美しい包丁の図鑑」は、最初から最後まで、包丁、包丁、包丁。世界にはこんなにたくさんの種類の包丁が存在しているのかと、ただただ感心してしまう図鑑なのである。

あなたの身の回りにあるもので唯一無二の存在といえば、キッチンで使うナイフや包丁ではないでしょうか。(中略)たとえば、よほど特別な人でない限り、肉を切るために持っている道具といえば、ナイフや包丁だけでしょう。けれどよく考えてみてください。あなたのキッチンに置いてあるのは、刃渡り20センチほどの危険極まりない鋭利な“兵器級の”金属、しかも装填ずみの拳銃と同等の殺傷能力秘めたものです。なのに、基本的にそれを使うのは、家族のために愛情をこめた料理をつくるときに限られているのです。

 

『はじめに』の書き出し部分を引用してみた。このあと、「恐ろしい面を秘めていながら、家庭になくてはならないのはナイフだ」と著者は続ける。確かにそうだ。ナイフや包丁がなかったら私たちの生活は相当に厳しいものになるだろう。

余談だが「もしナイフや包丁がなかったら」でこの動画を思い出した。チョップで野菜を切り、歯で髪を切る。刃物の街である岐阜県関市のPR動画だ。発表当時にけっこう話題になっていたので見たことがあるかもしれない。シュールで面白い動画である。

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「世界で一番美しい包丁の図鑑」は、ナイフ/包丁の構造(各部位の名称)、包丁の持ち方、包丁の使い方(切り方)、包丁の素材、作り方、世界的に有名なメーカー(イギリスにあるブレニム工房)とナイフ職人、さまざまなナイフ/包丁の種類と用途など、ナイフ/包丁に関するあらゆる情報が次々と登場する。刃物好き(やや危ない感じになるが)ならたまらない情報がてんこ盛りである。最初から丹念に読み込んでいってもいいし、興味がある内容を拾い読みするのもいいだろう。

ナイフ/包丁の種類を解説するページでは、西洋の包丁、中国の包丁、日本の包丁(和包丁)が紹介されている。ひとつの包丁を見開きで解説していて、片側のページが包丁の写真、反対側のページが解説という構成だ。西洋や日本の包丁には、対象とする素材や用途に応じていくつか種類があるのに対して、中国の包丁には定番ともいえるあの大きな四角い包丁しかないのが面白い。

本書を読んでいくと、やはり日本の包丁が抜きん出た存在であることがわかる。西洋の包丁も用途に応じて種類があるのだが、日本の分類に比べると大雑把だ。日本の包丁は、魚をさばく場合でも出刃包丁があり柳刃包丁があるし、野菜を切るときの菜切り包丁、巻きずしを切り分けるときの包丁、うなぎをさばくときの包丁など、用途の区分けが細かい。

また、日本の包丁職人の技術もレベルが高い。本書では、大阪・堺の町工場を舞台に包丁職人の仕事がマンガで描かれている。マンガといっても、数ページ分の職人の仕事紹介程度でストーリーらしいものは特にないのだが。

とにもかくにも、ナイフ/包丁について詳しく知りたいのなら、本書はピッタリの一冊だ。