本の感想を書くのに、こういう話から始めるのは違うと言われてしまうかもしれませんが、この本についてはこの話を抜きにはできないと思うので、そこから始めます。
紙の本ってすばらしい!
何を言っているのか? と思われたかもしれません。これは、私が「ロンドン・ジャングルブック」の実物を手にとって最初に感じたこと。そして、何度も繰り返し本書を読み返して見るたびに感じることなのです。
表紙の手触り。ページをめくるときに指に吸い付いてくるような感触。私は、紙の種類とか紙質とか印刷の技法とかの知識はありません。ただただ、この本の肌触りに愉楽を感じるばかりです。いつまでも触っていないと感じるばかりです。
「スゲェ肌触りのよい本だから、みんな買うといいよ!」で話を終わらせてもよいのですが、そういうわけにもいかないので本書の内容について。
「ロンドン・ジャングルブック」は、インドの独立系出版社『タラブックス』から刊行されたバッジュ・シャームの作品です。インドの画家で、インド国内だけでなく、フランス、イギリス、ドイツ、オランダ、ロシアなど世界各国でその作品が高く評価されています。
本書は、2002年にレストランの壁に絵を描く仕事でロンドンに滞在したバッジュ・シャームが、帰国後に制作した作品です。インドの片田舎から絵描きになることを目指して出てきた若者が、ロンドンという大都会で経験したこと、その目で見てきたことが、鮮やかな色使いで壮大なイメージとして表現されています。
バッジュ・シャームの描く絵は、もともとがインドで家の壁などに描かれてきた『ゴンド画』という民俗画がベースにあります。ゴンド画について、ネットでは「ポップで印象的」という評価が見られますが、本書に掲載されているバッジュ・シャームの作品も、どれもポップで印象的な作品ばかりです。見たもの、感じたこと、経験したことからイメージされる世界を描き出した作品を見ていると、人間の感受性というものの大きさや深さを感じます。表現の力を感じます。
本書を刊行した出版社『タラブックス』についても少し触れておきます。タラブックスは、南インドのチェンナイにある独立系出版社です。本づくりに対するこだわりが強く、ハンドメイドで本を作ったりしています。日本では、2017年から2018年にかけて、全国各地で『世界を変える美しい本 インド-タラブックスの挑戦』と題した美術展が開催されています。
本書に付属している「『ロンドン・ジャングルブック』のあとで」の中で、三輪舎の中岡さんが書いているように、この本がどういう本なのかを説明するのは難しいです。結局のところ、インドの美しい本を日本の本づくりの匠たちが美しい本に仕上げた作品、としか言いようがありません。
言葉で魅力を伝える本ではなく、書店の店頭で実際にその手で感じてほしい、その目で確かめてほしい本です。