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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

時代というものに翻弄される人間がその心の奥底に飼っている優しい鬼-レアード・ハント「優しい鬼」

小説とは、読者の心に解釈を委ね、ひとりひとりの読者によって昇華される作品なのだと思っている。だからこそ、作品に描かれる場面に惹かれ、そこから読み取れる登場人物たちの心理や風景に思いを馳せて、小説を楽しむのである。
優しい鬼

優しい鬼

 

レアード・ハント「優しい鬼」は、南北戦争の時代を背景に、権力を握る主人と、彼の妻としてだまされるように連れてこられた妻、そして、彼らのもとで働く黒人の使用人たちの物語が語られる。

 
物語は、妻ジニー、使用人の黒人女性、黒人男性の語りによって描かれる。語り部の視点によって描写されるため、その情報量は限られている。だが、限られた情報によって描かれているからこそ、読者である私たちは、そこに描かれていない世界観や人間関係、時代背景を自ら補い、物語を完成形として読み取っていく。
 
本書の訳者あとがきにおいて、翻訳の柴田元幸氏は、アメリカの小説における“声”について書いている。イギリスの小説が描写で読ませるのに対して、アメリカの小説は声で読ませる(聞かせる)のだと記す。その代表的な作家が、レアード・ハントなのだ。
 
小説読みの巧者でもある柴田氏が感じるような“声”の存在は、小説読みの凡人たる私には理解の及ばない部分がある。ただ、「優しい鬼」を読んでいて感じるのは、読み心地とでもいうべき音感であり、それが“声”に通じているのかもしれない。その上で、前述したような情報量を研ぎ澄ました描写とが相まって、作品の完成度を高めていくのである。
 
小説の奥深さを実感できる作品だと思う。