タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

エヴァ・イボットソン/三辺律子訳「夢の彼方への旅」(偕成社)-マイヤ、フィン、クロヴィス。子どもたちは夢の世界で大きく成長していく。

 

 

エヴァ・イボットソンの作品の中でも評価の高い作品が本書「夢の彼方への旅」です。

舞台は、いまから100年くらい前、20世紀初頭のブラジルです。当時、ヨーロッパからの移民者はアマゾンの奥地で大規模なゴム農場を経営して利益を得ていました。そこには、ジャングルの奥地とは思えないヨーロッパ風の街並みが広がり、大きな劇場も建設されていました。

主人公のマイヤは、2年前に両親を亡くし、ロンドンの寄宿学校で暮らしていました。ある日、ブラジルでゴム農園を経営するカーターさんが彼女を引き取ることになり、家庭教師のミントン先生ともブラジルへ旅立つことになります。マイヤは、アマゾンの大自然の中には、きっと素敵で楽しい生活が待っていると思っていました。

4週間の長旅の末に、マイヤとミントン先生がたどりついた場所は、想像したような夢の場所ではありませんでした。カーター夫妻も双子のビアトリスとグウェンドリンも、とってもわがままで嫌な人たちだったのです。使用人のインディオたちを見下し、大自然の中で暮らしているのに草花や動物や虫たちを毛嫌いし、むりやりにイギリス風の生活をしようとしている人たちでした。彼らがマイヤを引き取ったのも、彼女の両親が遺した財産が目当てだったのです。

彼らはマイヤにも意地悪をします。マイアは自由に外に出ることが許されません。カーター夫人が双子をつれてマナウスの街へ行くときもマイヤだけは許されないのです。でも、マイヤはそんな環境の中で、使用人のインディオたちと交流し、彼らから信用されるようになります。

カーター家の人たちは、とても嫌な人たちですが、それ以外にマイヤが出会う人たちはとても魅力的です。

旅の途中で出会った劇団で役者をしている少年クロヴィス
ジャングルの奥にある湖のほとりで暮らす少年フィン

彼らとの友情は、カーター家の人たちによって抑圧されていたマイヤの心に希望の光を灯します。3人には、それぞれに夢があり、それぞれに相手のことを気づかい、友情を育んでいきます。彼らは、自分たちに訪れる運命に対して、自分たちで考え、自分たちで行動し、そして幸せを手に入れます。もちろん、そこには彼らを理解する大人たちのサポートもあります。たくさんの勇気とたくさんの力によって、彼らは成長していくのです。

「夢の彼方への旅」は、100年前のブラジルを舞台にしていることから『歴史小説』として分類されるのですが、作者のエヴァ・イボットソンはそのことに違和感を覚えるといっていると、訳者あとがきに記されています。

確かに、時代背景であったり、当時のブラジルにおけるヨーロッパ人入植者たちの生活やゴム景気による経済的な発展がもたらした欧米化の流れなど、歴史的な事実に沿って物語が描かれているので、本書を『歴史小説』と読むことはできます。ですが、イボットソンの作品として考えれば、「夢の彼方への旅」も他の作品と同様に主人公であるマイヤやフィン、クロヴィスといった子どもたちが、閉塞された世界から解き放たれて自らの夢に向かって羽ばたいていく成長の物語なのだと感じます。

「夢の彼方への旅」には、ファンタジーではないリアルな人間模様が描かれています。それが、これまで紹介してきたイボットソンの作品とのわずかな違いとなるかもしれません。ですが、物語の土台にあるものは共通です。

これまで数々のエヴァ・イボットソン作品を読んできて、彼女が一貫して作品に込めているテーマは、閉塞感からの脱却であり、大きな飛翔であると感じました。主人公たちは、最初は様々なルールや環境の中で押さえつけられて生きています。それが、様々な経験や冒険を経て成長し、最後には大きな夢を叶えていく。そんなストーリーを感じるのです。

彼女の物語はすべてハッピーエンドです。だから安心して読めるのです。悪人には必ず鉄槌がくだされます。でも、それすらもなんだかユーモラスで思わず笑ってしまいます。読み終わって「あぁ、面白かった」と感じられるのは、よても素敵なことだなと思います。物語のハッピーエンドは、読者にとっても幸せなのだと思います。