タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ」シオドラ・ゴス/鈴木潤訳/早川書房-偉大なる大英帝国を復活させ、世界征服を目論むモリアーティ教授。2000年の眠りから目覚めたエジプトの女王テラ。〈アテナ・クラブ〉はその野望を打ち砕くことができるのか?

 

 

メアリ・ジキル、ダイアナ・ハイド、キャサリン・モロー、ベアトリーチェ・ラパチーニ、ジュスティーヌ・フランケンシュタイン、そしてルシンダ・ヴァン・ヘルシング。6人のモンスター娘たちが結成した〈アテナ・クラブ〉の冒険を描く「アテナ・クラブの驚くべき冒険」シリーズもいよいよ最終巻となります。前作「メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅱ ブダペスト編」のラスト、ブダペストに滞在するメアリたちにロンドンのミセス・プールから届いた電報は、アリスが何者かにさらわれたという衝撃の知らせでした。アリスを救出するためにメアリたちはロンドンへと戻ることになります。

アリスをさらったのは、シャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授でした。そして、シリーズ第1巻「メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち」で、ダイアナが預けられていた(事実上閉じ込めていた)聖マグダレン協会の院長だったミセス・レイモンドが彼の協力者でした。ミセス・レイモンドは、実は強力な催眠術を操る能力を持っているのです。そして、驚くべきことにアリスは、ミセス・レイモンドの娘リディアなのです。アリスの能力は母から受け継いだものでした。アリスもミセス・レイモンドも、メアリたちと同じモンスターなのです。

なんとなんと、ここにきてシャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授までもが、このシリーズのキャラクターとして登場してきました。オリジナルでは、ライヘンバッハの滝で死んだはずのモリアーティ教授ですが、実は生き延びて、こうして自らの野望を叶えるべくロンドンに舞い戻ってきたのです。さあ、話の風呂敷がどんどん広げられていきます。

モリアーティ教授の野望、それは栄光ある大英帝国復権。偉大なるイングランドを取り戻すべく、彼は〈黄金の夜明け団〉を組織します。また何やら新しい組織が出てきましたよ。彼らは、その野望を実現するためにある壮大な計画を練っていました。その計画の実現には、アリスの能力が必要だったのです。モリアーティ教授の野望を知ったアリスは、彼らに協力するふりをして脱出の機会を伺います。そんな中、屋敷の一室にホームズが監禁されているのを発見します。

偉大なる大英帝国を取り戻す。そのためにエジプトの女王テラを蘇らせる。それがモリアーティ教授が組織する〈黄金の夜明け団〉の計画でした。蘇ったテラの力と、ミセス・レイモンド、アリスの力を利用して、大英帝国の威信を取り戻し、世界を征服するのです。でました、世界征服!

モリアーティ教授が生きていること。彼とミセス・レイモンドがアリスをさらった犯人であること。彼らがアリスの能力を悪用して何やら壮大な悪事を企てようとしていること。アリスの監禁されている場所を知ったメアリたちは、ベイカー街遊撃隊の少年たちの力も借りてアリス奪還に向かいますが、ミセス・レイモンドの能力によってあっさり捕まってしまいます。そして、モリアーティ教授たちの計画実行の場に立ち会うことに。そこには、ホームズの姿もありました。彼は、モリアーティ教授の計画の中で生贄として捧げられるのです。メアリたちの前で行われる女王テラの復活の儀式。そこで起きる衝撃の展開。メアリたちの運命はどうなるのか。

迫力のクライマックス!そして衝撃のラスト!と言いたいところですが、なんとここまでで物語はまだ道半ば。後半はブダペストから帰還したキャサリンベアトリーチェ、シュタイアーマルクの古城でカーミラから吸血鬼としての生き方を学んでいたルシンダ、そして〈錬金術師協会〉の会長アッシャも合流して、蘇った女王テラ、ミセス・レイモンド、ミス・トレローニーたちの野望を打ち砕き、シャーロック・ホームズとアリスを救出するためにコーンウォールでの決戦へと突き進んでいくのです。

それにしても次から次へと登場するキャラクターたちの豪華なこと。19世紀から20世紀初頭に書かれて21世紀の現在でも世界中で読まれている数多のミステリーやホラー、SF小説のキャラクターたちがこれでもかと登場して物語を盛り上げていきます。前作のレビューでも書いたように、私は本シリーズに登場するキャラクターたちが登場するオリジナルの作品は「シャーロック・ホームズ」シリーズくらいしかちゃんと読んだことがないので、このキャラはオリジナルではどういうキャラなのだろうと思いながら読んでいたのですが、オリジナルを知らなくても本シリーズは全然楽しめるので気にする必要はありません。それでも、気になるという方は、ファンタジイ研究家の中野善夫さんによる解説に詳しいので読んでみてください。

「アテナ・クラブの驚くべき冒険」シリーズは、本書をもって完結となりますが、〈アテナ・クラブ〉の活躍はまだまだ続いていきそうです。メアリたちの次なる新たな冒険が、また私たちの前に登場することを期待したいと思います。