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第四回日本翻訳大賞授賞式に行ってきました!(イベントレポート)

今回で第四回となる日本翻訳大賞の授賞式が、2018年4月28日に御茶ノ水にあるデジタルハリウッド大学で開催されました。第一回から毎回楽しみにしている授賞式に今年も当然参加してきましたよ!

第四回の授賞式は、第三回に続いてデジタルハリウッド大学駿河台ホールでの開催でした。こちら、司会をつとめた米光一成さんが教授をつとめているゲーム、アニメ、映画などの映像系メディアクリエイターを育成する大学です。

開場時間の14時に受付を済ませ、座席を確保したところで物販コーナーへ。今回の大賞受賞作である「殺人者の記憶法」(クオン)と「人形」(未知谷)が山積みになっていました。クオンのコーナーには「殺人者の記憶法」の韓国語原著が売られ、未知谷のコーナーには訳者である関口時正さんの著作が売られていました。未知谷では、「人形」を今回限りの五千円で販売されていて、司会の米光さんがしきりに「私は六千円で買いました」と繰り返していました。私も六千円で買っていたので、心の中で「米光さん、私もです!」と繰り返していたのは言うまでもありません。

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14時半を少し過ぎた頃に、まったりとした感じでオープニングを迎えます。オープニングアクトは、日本翻訳大賞授賞式ではすっかりおなじみ、西崎憲さん率いるグループ「スイスカメラ」の演奏でスタートです。

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今回のプログラムを、参加者に配布された小冊子から抜粋します。

1.オープニング
2.開会宣言
3.日本翻訳大賞について
4.選考経過
5.選考委員座談会
6.贈呈式
7.トーク「翻訳について」
8.受賞作朗読
9.ゲスト朗読
10.閉会宣言

プログラムは、毎年恒例のパターン。スイスカメラの演奏から司会の米光さんが開会を宣言、続いて米光さんと西崎さんで日本翻訳大賞の成り立ちなどの話がありました。

選考経過については、選考委員の金原瑞人さんと松永美穂さんから説明がありました。一次投票から二次選考に残った18作品について、そこから最終候補に残った5冊について、ひとつひとつの作品の簡単な紹介を交えつつ説明していきます。

今回の候補作は、韓国文学が3作品(殺人者の記憶法、アオイガーデン、七年の夜)の他、「中国が愛を知った頃~張愛玲短篇選」、「星空」といったアジアの作品が多いのが特徴です。その他、グラフィックノベル(マッドジャーマンズ~ドイツ移民物語)もあり、言語も英語、韓国語、中国語、ドイツ語、イタリア語と多種多様であったりと、日本の翻訳文化のレベルの高さが感じられるラインナップになっていると思いました。

選考委員(金原瑞人さん、岸本佐知子さん、柴田元幸さん、西崎憲さん、松永美穂さん)の選考の結果、第四回日本翻訳大賞は、関口時正訳・ボレスワフ・プルス著「人形」(未知谷)と吉川凪訳・キム・ヨンハ著「殺人者の記憶法」(クオン)に決定しました。最終候補5作品の中で、一番厚い本(人形)と一番薄い本(殺人者の記憶法)が選ばれたのは、偶然と思いますが面白い結果です。

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選考委員5人が壇上にあがって座談会に続いて、いよいよ贈呈式です。今回、「人形」の関口時正さんがスケジュールの関係で欠席となったため代理は未知谷の飯島社長です。選考委員の岸本佐知子さんから、飯島社長、吉川凪さんに賞状と副賞が手渡されました。

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贈賞に続いては、柴田元幸さんをファシリテーターとして受賞者を交えた「翻訳について」の座談会。今回、訳者の代理で出版社の方が出席しているとあり、柴田さんからは未知谷の飯島社長に「人形」の製本に関する質問がありました。

実物を見ると実感できますが、「人形」はとにかく分厚いです。通常の製本方法(紙、ページあたりの行数など)だと1500ページにもなり、広辞苑を製本するような製本機を使っても製本できなかったとのこと。そこで、紙の種類を変更して2センチほど厚みを減らし、それでも無理だったので、ページあたりの行数を21行にすることでどうにか製本可能となったのだそうです。ページあたり21行にしたため、とじしろのギリギリまで印刷することになったので、ページのかがり方を工夫して180度全開できるようにしているのだそうです。

一方、吉川さんには「殺人者の記憶法」の翻訳にあたっての苦労話など。贈呈後のスピーチでは、「翻訳にはほとんど苦労しなかった」と話していた吉川さんですが、それはそもそも作品がわかりやすい文章で書かれていたのと、特別に凝った表現や韓国文化に依存するような表現が少なかったことが理由だそうです。

会場からは、ポーランドや韓国での文学事情やまだ日本に紹介されていない隠れた名作がないかといった質問がありました。韓国では、日本の作品も多く訳されていて、やはり村上春樹の人気が高いそう。現代韓国作家のほとんどが、村上春樹の作品に影響を受けているのではないかということでした。

受賞者座談会に続いては、受賞者による作品の朗読です。個人的には、日本翻訳大賞の授賞式で一番楽しめて、一番感動するプログラムがこの訳者による朗読なのです。

未知谷の飯島社長による「人形」の朗読、吉川さんによる「殺人者の記憶法」の朗読が、スイスカメラの生演奏をバックに行われます。おふたりとも、お客さんを前にして朗読することは普段ほとんど経験していないと思うのですが、まるで朗読慣れしているように、生演奏に乗って感情豊かに朗読されていて、今回もすばらしいプログラムでした。

そしてなんと、ここで今回はスペシャルゲストとして、芥川賞作家の町田康さん登壇です。こちらも生演奏をバックに、日本文学全集で現代語訳を手がけた「宇治拾遺物語」の作品を朗読しました。町田さんの朗読は、題材が「宇治拾遺物語」という滑稽譚であることと、なにより町田節ともいえるパフォーマンスが最高で、会場は笑いが溢れる盛り上がりでした。

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こうして、あっという間に2時間のプログラムは終了しました。今回も本当に楽しい授賞式でした。終了後は、会場に来ていた「やまねこ翻訳クラブ」の皆さんや「はじめての海外文学」団長のでんすけのかいぬしさんとお会いしてご挨拶。「殺人者の記憶法」に吉川さんのサインをいただいて大満足のイベント会場を後にしたのでした。

最後になりましたが、受賞した関口時正さんと吉川凪さんに改めてお祝いを申し上げます。受賞おめでとうございました。また、すばらしい翻訳書を私たちに届けていただいたことに深く感謝いたします。ありがとうございました、また、日本翻訳大賞の企画・実行にご尽力いただいている選考委員をはじめスタッフの皆さんにも御礼申し上げます。ありがとうございました。

運営費の問題などもあるとのことですが、このすばらしい企画はこれからも長く続けていただきたいと思います。そのためには、私たち翻訳作品を愛する読者もたくさんの応援をしていく必要があると思います。どのような形になるかはわかりませんが、私たちで力になれることがあればサポートしていこうと思います。

さあ、来年の第五回日本翻訳大賞に向けて、今年もたくさん翻訳作品を読みましょう!