タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「巨神計画(上/下)」シルヴァン・ヌーベル/佐田千織訳/東京創元社-6000年前に異星人が埋めた巨大ロボットのパーツを集めろ!巨大ロボット復元プロジェクトが幕をあける

 

 

11歳の誕生日に父からプレゼントされた自転車で森の中を走っていたローズは、大きな穴に落ちてしまう。彼女が落ちた穴の底には巨大な金属の“手”があった。

シルヴァン・ヌーベル「巨神計画」は、6000年前に何者かが地球に残していった巨大ロボットのパーツを発掘し、ロボットを復元するプロジェクトを描くSF小説である。全編が、〈インタビュアー〉と呼ばれるプロジェクト推進者とプロジェクトの関係者、政府関係者、軍関係者との対話記録やプロジェクト関係者の個人記録といった記録文書形式となって、通常の小説とは違う趣向で構成されているのが特長である。

成長して物理学者となったローズ・フランクリンは、自分が発見した“手”の分析を行い、それがイリジウム合金製であること、6000年前に埋められたものであることを報告する。人間ではない何者かが、6000年前に地球上に存在し、この巨大な“手”を埋めたのだ。“手”以外のパーツも地球上のどこかに埋められているに違いない。こうして巨大ロボットのパーツを発掘し復元するプロジェクトが本格始動する。

ローズは、埋没しているパーツを探す方法を考案し、カーラ・レズニック、ライアン・ミッチェルというふたりのアメリカ陸軍ヘリパイロットと組んでパーツ探索活動を開始する。さらに、プロジェクトではローズが“手”を発見した穴から一緒に発見された文字板の解析も進められていた。文字板に書かれた謎の文字、言葉を解読するのだ。解読にあたるのはヴィンセント・クーチャーというカナダ出身の大学院生である。彼は、様々なアプローチを繰り返し、文字板に何が書かれているかを解読する。

6000年前とは、日本だと縄文時代、世界に目を向けるとエジプトの三大ピラミッドが建造されたのが4500年前頃とされているので、それよりもさらに1500年も前ということになる。まだまだ人間は文明社会を築くには至っておらず、かろうじてその兆しが見え始めるかどうかといった時代だろうか。そんな、人類がまだまだよちよち歩きしているときに、何者かが地球上に残していった巨大ロボットのパーツ。偶然にそのパーツのひとつを発見することになった少女ローズが成長して物理学者となり、発掘復元プロジェクトのメンバーとなる。さらに、やや性格に難はあるが腕の良いヘリパイロットのカーラや彼女に思いを寄せるパイロットパートナーのライアン・ミッチェル、パーツとともに発見された謎の文字板の解読を担当する言語学者のヴィンセント、そしてプロジェクトチームを束ねる謎の人物〈インタビュアー〉。プロジェクトチームは、地球上のどこかに埋められているパーツをすべて探し出し、巨大ロボットを復元させることができるのか。そのロボットを動かすことはできるのか。なにより、そのロボットはいったい誰が何の目的で地球に残していったものなのか。様々な謎を提示しつつ、壮大なプロジェクトが確実に進行しているプロセスやその中で起きる様々な事件や事故、ときに生々しくさえある人間関係など、読みどころには事欠かない作品である。文庫で上下巻の作品だが、比較的スイスイと読める。

著者は本書がデビュー作。原稿段階で映画化が決まったという。日本のアニメが好きで、本作も『UFOロボ グレンダイザー』というアニメを息子とみていて発想したと、巻末の解説で渡邉利道氏は書いている。『UFOロボ グレンダイザー』以外にも様々なアニメが作品に何らかの影響を与えているかもしれない。

このレビューでは、プロジェクトメンバーのうち、〈インタビュアー〉、ローズ、カーラ、ヴィンセント、ライアンについて書いたが、他にもカーラとヴィンセントがロボットとシンクロする謎を遺伝子解析の観点からアプローチしようとする遺伝学者のアリッサ・パパントヌ(かなりヤバいタイプの研究者だ)や〈インタビュアー〉に接触してくる謎の人物バーンズなど、物語に複雑さをもたらすキャラクターが登場する。いずれも今後の「巨神覚醒」や「巨神降臨」へと続くシリーズの中でキーパーソンとなっていく。彼ら登場人物たちの動向にも注目したい。上巻のラスト部分、そして本作のエピローグには主要登場人物のひとりローズ・フランクリンを巡る驚愕の展開が描かれており、読者をグッと惹きつける。エピローグの衝撃は、続刊「巨神覚醒」への興味を激増させる展開だ。読み終わった瞬間に続きを読みたくなる作品である。