タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「巨神覚醒(上/下)」シルヴァン・ヌーベル/佐田千織訳/東京創元社-巨大ロボット発掘・復元プロジェクトから9年。ロンドンに突然2体目の巨大ロボット出現!人類はこの非常事態にどう対応する?

 

 

※前作「巨神計画」と本作のネタバレを含みます。

 

前作「巨神計画」で地球上の各所に埋められたパーツを回収し巨大ロボットの復元に成功したプロジェクトチーム。“テーミス”と名付けられた巨大ロボットは、国連によって組織された国連地球防衛隊(EDC)の所管となり、パイロットのカーラ・レズニック、ヴィンセント・クーチャーは司令官のユージーン・ゴヴェンダーの指揮下におかれることとなった。

あれから9年。人類の平和を打ち破るように、ロンドンの中心部に突如2体目の巨大ロボットが出現するところから「巨神覚醒」は幕を開ける。テーミスと同じタイプのロボットは、6000年前に地球にテーミスを残していった異星人が送り込んできたものなのだろうか。異星人の目的は地球征服なのだろうか。しかし、2体目の巨大ロボットは、出現して以降まったく動きをみせない。ロボットの目的が判然としない以上、EDCもむやみにテーミスを出動させるわけにいかない。ロンドンは緊張状態となり、その動向が世界中から注目される。その緊張の糸がプツリと途切れたとき、悲劇は一瞬にして引き起こされる。

物語の序盤から数々の謎が読者に提示される。プロローグに登場する少女“エヴァ”とは何者で、彼女はストーリーの中でどのような存在になるのか。さらに、前作でテーミスが引き起こした不慮の事故により命を奪われたローズ・フランクリン博士。彼女は、前作のラストにアイルランドで発見保護される。事故で死んだはずの彼女は、なぜか4歳若返り、自身がプロジェクトメンバーとしてテーミス復元に関与していたことの記憶を失っている。それらの謎が提示されたところに、ロンドンでの巨大ロボット出現の事態が起きる。物語のスタートからグイグイと読者の興味を惹きつける。

ロンドンに出現したロボットは、イギリスが軍事的な行動をみせたことに反応する。ロボットがその腕から放った光は、一瞬にしてロンドンの街を無に帰する。それは、人類には対抗できない、まさに異星人の力であった。これに対抗できるのはテーミスしかいない。カーラとヴィンセントは、テーミスを操って巨大ロボットと対決し、激闘の末にこれを倒す。だが、これですべてが終わったわけではなかった。

ここまででまだ上巻の半分にも到達していない。本番はまだまだこれからだ。ロンドンに出現した巨大ロボットとテーミスの対決と並行して、エヴァとローズの物語も描かれていく。このふたりの存在が、今後の物語の展開には重要な役割となる。特にエヴァの存在だ。

テーミスパイロットを選ぶという設定は、前作で明らかとなった。テーミスとシンクロして彼女を操縦できるのは、現時点ではカーラとヴィンセントのふたりだけ。この状況にマッドサイエンティックな関心を抱くのが、前作でも登場した遺伝学者のアリッサ・パパントヌである。彼女は、前作でカーラとヴィンセントの遺伝子情報を解析し、ある恐るべき企みを実行に移した。彼女は、ふたりから採取した情報をもとに人工授精でエヴァを生み出したのだ。自分たちに娘がいるという事実を知ったカーラは、単身プエルトリコへ向かう。

ローズは混乱していた。自分の身に起きたこと、〈インタビュアー〉に告げられた事実をそう簡単には受け入れられない。それでも、彼女はカーラやヴィンセントと再会(ローズにとっては初対面)し、テーミスと関わることで物理学者としての責務を果たしていくことになる。

単純にテーミス対巨大ロボットの構図だけでも面白いエンタメストーリーは構築できるかもしれない。だが、そこにエヴァやローズの存在や彼女たちが抱える葛藤、突然現れた巨大ロボットとその脅威になすすべのない無力な人類、このような逼迫した状況にあってなお対立する権力者たちの思惑といった要素が加わることで物語はより深みを増し、読者の興味を惹きつけていく。本シリーズに共通する会話記録や交信記録、個人的記録によって構成されるフォーマットがさらに興味を増幅させているようにも思う。

畳み掛けるように事件が起きるところも読者を飽きさせない。一度はテーミスによって倒された巨大ロボットだが、1年後再びロンドンに出現する。さらに世界各国の主要都市に次々と巨大ロボットが出現するのだ。人類はパニックに陥る。人間の科学によって作られたミサイルなどの兵器は一切通用しない。そして、ついに巨大ロボットたちによる攻撃が開始される。ロボットから噴出されたガスにより、人間はバタバタと倒れ死んでいく。だが、ここでも不可解なことが起きる。同じガスを吸い込んでいても、死ぬ人間と死なない人間がいるのだ。それは何故か。そして、いまだに不明な異星人の目的とか。鍵を握るのは、〈インタビュアー〉やローズに情報を提供する謎の人物バーンズである。ロボットたちによる攻撃が行われ、数千万、数億の人間が命を落としていく中で、ローズたちの懸命の努力は続けられる。

いまだ目的を明かさない異星人。まるで死すべき者を選ぶかのようなガス攻撃。刻一刻と人類滅亡のときが迫りくる中で、ローズやカーラ、ヴィンセントたちは、状況を打開する方法を懸命に探る。懸命の努力の果てに、物語は最終局面を迎える。いくつかの大きな犠牲を払って。そしてエピローグ。テーミスのコックピットに乗り込んだローズ、ヴィンセント、エヴァ、ユージーンの4人は、突然起動したテーミスとともに、ある場所に飛ばされる。その場所とは? 謎はすべてシリーズ最終巻「巨神降臨」へと持ち越されるのである。

シリーズ第1作の「巨神計画」、そしてシリーズ第2作となる本作と様々な謎が読者に提示された。そもそも、6000年前に地球に来た異星人は、なぜテーミスを地球に残していったのか(しかもバラバラのパーツにして世界中に埋めている)。6000年後、テーミスを復元させた人類の前に巨大ロボットを出現させた異星人の目的はなにか。なぜ、カーラやヴィンセント、エヴァのような特定の人物しかロボットとシンクロできないのか。なぜ、巨大ロボットが放出したガスで死ぬ人間と死なない人間が分かれるのか。そして、テーミスとともに見知らぬ世界へ飛ばされたローズ、ヴィンセント、エヴァ、ユージーンの運命はどうなるのか。さらに、地球の平和は守られるのか。その謎は、シリーズ完結編となる次作「巨神降臨」にて明らかとなるのであろう。人類の運命がどのような形で決着するのか。ドキドキとワクワクがとまらない。