タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ネットワーク・エフェクト」マーサ・ウェルズ/中原尚哉訳/東京創元社-あの“弊機”が帰ってきた!シリーズ初の長編作品は、最後までスリリングな展開でワクワクしっぱなし!

 

 

本国ではSF作品に贈られるヒューゴー賞、ネヴュラ賞、ローカス賞の三冠(ヒューゴー賞ローカス賞については2年連続受賞)に輝き、シリーズ作品をまとめて翻訳刊行された前作で訳者の中原尚哉氏が第七回日本翻訳大賞を受賞した「マーダーボット・ダイアリー」。本書はシリーズ初長編となる作品で、ネヴュラ賞とローカス賞を受賞している。

前作でブリザベーション連合評議会議長メンサーの元にとどまることとなった“弊機”。本書ではメンサーの依頼を受け、ブリザベーション調査隊に同行して惑星調査に向かうことになる。調査隊にはメンサーの娘アメナも一員として加わっており、彼女の護衛も弊機の仕事だ。

事件は調査の帰路に起きた。当然現れた謎の船が接近してきたのだ。謎の敵船は調査隊の船に向けて攻撃を仕掛けてくる。弊機は調査隊を守るため敵船へのアクセスを試みるなかで、敵船がかつて交流したART(不愉快千万な調査船=アスホール・リサーチ・トランスポート)だと気づく。だが、今まさに調査隊を襲おうとしているARTは友人ARTではなかった。ARTはどうなってしまったのか。弊機たちは事態を収拾して無事にブリザベーション連合に帰還できるのか。

前作「マーダーボット・ダイアリー」の中でも登場し、弊機との舌戦を繰り広げつつも弊機をサポートして難局を乗り切ってきた盟友ARTの再登場にワクワクする読者も多いだろう。だが、今回ARTは弊機の知るARTではなくなっている。いや、ARTとしての存在が消されてしまっているのだ。弊機は、ARTを救い出すため奮闘することになる。そして、なぜARTが乗っ取られ調査隊が襲われたのか。何が目的で誰が動いているのか。最悪の事態を逃れるためにはどうしなければならないのか。そういった数々の難題に立ち向かうことになる。

弊機は、相変わらずの人間不信(人間嫌いと言った方がいいか)で、人間側からも完全には信用されていない(全員ではなく、信用している者もいれば、まったく信用していない者もいる)。そういう状況下にあって、警備ボットとしての役割を果たし、人間たちに対して憎まれ口を吐き出しながらも任務を全うしようとする。長編の連続ドラマの世界に没入することを唯一の癒やしとして、弊機はその身を危険に晒す。

前作で弊機に萌えた読者は、今回もその一挙手一投足にドキドキワクワクするだろう。長編ということで、前作と比べると途中でまだるっこしいと感じることもあるが、次から次と繰り出されるストーリー展開は読者を飽きさせない。

中盤以降、初期化され自分を取り戻したARTが加わり、弊機は事態の収拾のためにある作戦を実行する。その作戦内容と作戦決行からラストまでは、警備ボットを主役としているからこその展開と言えるだろう。まさか“弊機2.0”が登場するとは!

海外文学で、かつSFとなるとハードルが高いと感じられるかもしれないが、宇宙活劇的なエンタメ小説を読みたいと思っている人には、「マーダーボット・ダイアリー」シリーズはオススメの小説である。いきなり長編は無理そうと思ったならシリーズ第1作の「マーダーボット・ダイアリー」を読んでほしい。シリーズ3作目となる「逃亡テレメトリー」も刊行されていて、そちらはちょっと長めの中編というボリューム感で、内容もミステリーチックになっているので、より一層読みやすいし面白いと思う。

みんなで弊機に萌えようじゃないか!

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