タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「逃亡テレメトリー」マーサ・ウェルズ/中原尚哉訳/東京創元社-脅威評価値7%のブリザベーション・ステーションで発見された他殺体。事件の真相を解明するため弊機は捜査に乗り出す(渋々だけど)

 

 

「マーダーボット・ダイアリー」、「ネットワーク・エフェクト」に続く“弊機”シリーズ第3弾が早くも刊行された。今回は、ブリザベーション連合のステーション内で発見された他殺体を巡り、弊機がブリザベーション連合警備局とタッグを組み事件解明に取り組む。

ブリザベーション・ステーションのモール。3本の通路が交差するジャンクションは、死亡事故の起きる脅威評価はほとんどゼロの場所だ。なにより、ブリザベーション・ステーション自体、殺人事件の発生確率は7パーセントである。しかし、いま弊機とメンサー博士(ブリザベーション連合の指導者)、インダー上級警備局員の前に横たわっているのは、明らかに他殺体である。

本作「逃亡テレメトリー」は、こうして物語の幕を開ける。弊機は、メンサー博士の依頼によりステーション警備局と協力して事件の捜査にあたることとなるが、警備局の責任者であるインダー上級警備局員は、弊機を信頼しているわけではない。というか、そもそも人間たちは弊機を信頼していない。かつて暴走し大量殺戮事件を起こしたマーダーボットである弊機が、またいつ暴走を起こすかわからないし、警備局はそもそも弊機のステーション滞在には反対だったのだ。それでもメンサー博士は、弊機にも人格があるとし、警備局もいくつかの条件をつけて弊機がステーションに滞在することを認めた経緯がある。そこに今回の事件が起きたというわけだ。

こうして弊機は警備局とともに事件の捜査にあたることになる。だが、警備局側は協力的ではなく、平気もそれは想定済み。それでもいくつかの情報から被害者の身元や素性、足取りなどがわかってくる。そして、事件の背景にある事実が明らかになってくる。

SF濃度が高かった前作と比べると、本作はミステリー要素が強い。殺人事件があり、その捜査をアンドロイドと人間が互いに相手に不信感を抱きながらも協力して進めていくという構図は、先日読んだアイザック・アシモフ鋼鉄都市」を思い出させる。あちらは人間が主人公だったが、こちらは弊機が主人公だ。「鋼鉄都市」では、捜査を進めていく中で次第に互いを信頼する気持ちが生まれていき、最後には最強のバディが誕生していたが、本作でも、弊機の行動からインダーをはじめとする当初は弊機を信用していなかった人間たちが次第にその能力を認めるようになる流れがある。最終的に互いに認め合う関係になれたのかどうかは、実際に本を読んで確認してもらった方がいいだろう。まあ、相手は弊機だということを考えれば想像に難くないかもしれない。

ミステリーとしてもさまざまな要素が盛り込まれていて面白かった。弊機に言わせれば十分とは言えないまでも、ある程度しっかりした監視警備システムが構築されているステーション内で、誰に見られることも検知されることもなくどのようにして殺人が行われ、どのようにして死体がモールのジャンクションに運ばれたのか。被害者はなぜ殺されたのか。そしてなにより犯人は誰なのか。ラストに明かされる真相は、これまで本シリーズを読んできた愛読者としては、なるほどという感じだった。

本書には表題作でもある「逃亡テレメトリー」の他に、採掘場での任務エピソードを描く「義務」というショートーストーリーと、メンサー博士の視点で描かれる「ホーム-それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」の2篇が収録されている。「ホーム」の方は視点が弊機ではないというところで、これまでの作品は違う一面がみられると思う。

日本翻訳大賞受賞の効果もあってか、2021年10月に「ネットワーク・エフェクト」が刊行され、半年後の2022年4月に「逃亡テレメトリー」が刊行されと、怒涛の刊行ラッシュとなった「マーダーボット・ダイアリー」シリーズ。弊機に萌えた読者にとっては嬉しいことだ。このペースで次々と翻訳刊行というわけにはいかないだろうが、これからも確実に弊機の活躍する作品が翻訳されることを期待している。シリーズ作品の翻訳は、既刊本が売れなければ継続しなかったりするので、今後も弊機の物語を読み続けたいなら、シリーズ作品は絶対に購入しておかなければと思う。次の作品も絶対に買うぞ!

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