タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

デボラ・インストール/松原葉子「ロボット・イン・ザ・ハウス」(小学館)-タング、ますますかわいくなってるよー!

 

 

『庭にロボットがいる』なんてことは、日常でそうそう起こることではない。ましてやそれが、2回も起きるなんて宝くじに当たるよりも珍しいことだ。

でも、ベン・チェンバースの家の庭には、そのとき二体目のロボットの姿があった。ジャスミンという名前のロボットだ。

今回のロボットは黒い球体で、頭から針金ハンガーのフックや肩の部分に似た金属が好き勝手な角度に突き出ている。

1年半前にチェンバース家の庭に現れた一体目のレトロな箱型ロボット《タング》に比べるとずいぶんと無機質なロボットだ。

前作「ロボット・イン・ザ・ガーデン」で、レトロな箱型ロボット《タング》の狂おしいほどの可愛さにハートを射抜かれてしまった皆さん、彼が帰ってきましたよ!

「ロボット・イン・ザ・ハウス」は、マッドサイエンティストのボリンジャーからタングを救い出し、彼を含めた新しい生活をスタートさせたチェンバース一家の物語の続編である。ベンの優柔不断な性格などもあって、チェンバース家の家庭事情はちょっと複雑だけど、ベン、“元”妻のエイミー、ふたりの間の愛娘ボニー、そしてロボットのタングの4人はひとつ屋根の下で幸せな同居生活をおくっている。

そこに現れたのは、タングの生みの親でもあるボリンジャーが送り込んできたジャスミンだった。彼女は、ボリンジャーが自らの所有物であると主張するタングを取り戻すために、ベンとタングの居場所を探る目的で送り込んだロボットだった。ジャスミンは、自らの居場所をボリンジャー宛に送信する。

友情によって結ばれた愛するロボットを救うためにマッドサイエンティストと戦う男。そんなハードな物語を想像してしまいそうになるが、このシリーズに関しては、それ以上にタングというロボットの超絶かわいい姿や行動にキュンキュン、ニヤニヤしてしまう方が大きい。

まだ十分な知識も経験も持たないタングは、小さな子どもと同じだ。目に入るものすべてに興味を持ち、多少危険なことでも無意識に手を出してしまう。本書の中では、ちょっと幼稚園生くらいの年頃で、ちょっとした反抗期に入っている。妹のような存在のボニー(タングは舌っ足らずに『ボンニー』と呼ぶ)の面倒を見たがるけど、ベンもエイミーも心配で目が離せない。そこに新しいロボットの登場だ。彼らの混乱、ドタバタぶりが面白いけど不安でもある。

まだまだ幼いタングや、よちよち歩きのボニーが巻き起こす様々な事件や、ときに腹立たしいけど愛くるしさに溢れた彼らの表情や行動は、過去に子育てを経験してきたり、今まさに子育て真っ最中のお父さん、お母さんたちから、大いに賛同されるのでないかと思う。それは、懐かしい思い出でもあり、現実の悩みでもあるだろう。

本書シリーズは、AIの発達によって家庭に日常的にロボットが暮らす社会を舞台にしている。リアルな現実社会に限りなく近い設定ではあるが、まだまだSFの世界である。そんな空想の世界であっても、子育てというものは機械には変わることができない人間性(父性や母性)を必要としていることを本書が示していると思う。

前作のレビューでは、タングと行動をともにする中で、父親としての自覚が生まれ、父親として成長していくベンの姿に共感した。父親とは、子どもが生まれた瞬間から父親になるための成長をスタートさせる。前作のベンは、まさに父親になりたての男だった。

本作でのベンは、父親としての成長に加えて、家庭を守る男としても成長している。それは、家長としての絶対的な威厳ということではない。家庭の中で、果たすべき役割をきっちりと果たせる人間になったということだ。様々な困難を経てベンとチェンバース家の人たちは大きく成長した。

この物語の続編が出るのかはわからない。でも、いつの日かもっと大きく(タングの場合はロボットなんで物理的にはムリなんだけど)なったチェンバース家のその後のお話を読んでみたいと思っている。