タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】かたやま和華「猫の手、貸します〜猫の手屋繁盛記」(集英社)ー「猫の手屋繁盛記」シリーズ第1巻。何の因果か猫の姿になってしまった猫太郎こと宗太郎。善行を積むことで彼は人間に戻れるのか?

10月3日から11月4日まで、1ヶ月にわたってBOOKPORT大崎ブライトタワー店で開催された「#棚マル もっと本が好き!フェア」は、大盛況のうちに惜しまれつつ終了しました。私もささやかながら、棚に配置する本の推薦をさせていただきまして、自分が選んだ本がリアル書店の棚に置いてもらえるという貴重な経験をさせていただきました。関係者の皆さんに御礼申し上げます。また機会があれば、こういう企画に参加したいです。

さて、本のレビューです。

かたやま和華「猫の手、貸します〜猫の手屋繁盛記」は、#棚マルフェアで購入した中の1冊。推薦者はレビュアーのはるほんさんです。実は、ひとつ前にレビューした「ロボット・イン・ザ・ガーデン」もちょっとしたご縁ではるほんさんからお譲りいただいた作品でして、私の中では「ロボット・イン・ザ・ガーデン」~「猫の手、貸します」と続き一連の読書は、期せずして「はるほん祭り」状態でした。あ、別に同じタイミングで開催されていた「神保町古本まつり」にかけたわけではありませんよ。あくまで偶然です(笑)

 

はるほんさんの書評はこちら

www.honzuki.jp

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「猫の手、貸します」は、ある出来事がもとで白猫の姿にされてしまった近山宗太郎が、日本橋長谷川町三光稲荷神社並びにある三日月長屋で「猫の手屋」という便利屋稼業を開き、長屋の住人たちのおせっかいを受けながら、持ち込まれる事件を解決していく人情物語です。宗太郎は、その風貌から長屋の人たちに「猫先生」とか「猫太郎さん」と呼ばれて親しまれていて(呼ばれる度に「猫じゃない」と否定するのが面白い)、すっかり長屋に馴染んでます。

今回、猫太郎が解決に乗り出す事件は3つです。

「迷子地蔵」は、三日月長屋で安い食事を提供することで人気の店「なん八屋つるかめ」の三郎太とお軽夫婦の娘お妙が、突然姿を消してしまう話。店を女房に任せて遊び歩いてばかりの宿六亭主である三郎太としっかり者のお軽は、いつもケンカは耐えない。そんな夫婦には3人の子どもがあって、お妙はその長女。とてもしっかり者なお妙はどこへ消えてしまったのか。猫太郎はお妙を探して歩くことになる。読み終わって心がほっこりするお話。

「鳴かぬ蛍」は、夏の怪談物。三日月長屋の大家の惣右衛門から持ち込まれたのは、大伝馬町にある太物問屋三升屋が谷中の日暮らしの里に持っている寮に幽霊が出るという話。なんでも、三升屋の旦那である平左衛門の亡くなったお内儀さんの幽霊が出るのだという。惣右衛門からの依頼は、寮に一晩泊まって幽霊が出るのか確かめてほしい、もし本当にでたら恨みのひとつも聞いてやってほしいというもの。幽霊の正体はあっさり判明するが、三升屋の寮の様子に違和感を覚えた猫太郎は、あらためて幽霊の謎を探る。

思案橋から」では、猫太郎が猫股によって猫人間からとうとう白猫に姿を変えられてしまう。困惑する猫太郎は、長谷川町の町木戸のところで番太郎の吉蔵がひとりの老婦人と押し問答しているところにぶつかる。お染という老女は、かつて自分が捨てたお花という白猫の姿を見たといっているようだ。成り行きを見守っていた猫太郎は、お染に見つかってしまい、小間物屋東屋へと連れ去られることになる。そこで、お染がお花という白猫に固執しているわけを知るのである。

猫人間が身近に暮らしている状況を特に疑問も感じずに平然と受け入れ、それどころか「猫先生」だの「猫太郎さん」などと慕っている様子の長屋の住人たちが微笑ましく、こうした設定も含めて、本書が醸し出すほっこりした感じは、読んでいて癒しを与えてくれる気がします。猫太郎以外の登場人物たちも、ひとりひとりユーモアがあって個性的で、いい味を出しているなぁ、という感じ。読んでいると個々のキャラの誰かに自分を照らしたり、「この人いいな、好きだな」という気持ちになります。とにかくイヤなキャラがひとりもいない。ねこう院などという怪しい偽坊主に扮して猫太郎を戸惑わせる若手役者の中村雁弥にしても、けっして悪役キャラではありません。

各短編も、人死するような事件が起きるわけではありません。市井の人々や大店の旦那衆やお内儀さんが悩まされる些細な出来事が語られる。殺伐とした雰囲気はなく、安心して読めます。

「猫の手屋繁盛期」は、本書がシリーズの第1巻で、すでに第3巻まで出ています。この話の続きがあるわけですね。これは読まないわけにはいかないかぁ(笑)。