タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ロボット・イン・ザ・スクール」デボラ・インストール/松原葉子訳/小学館-「何で僕には学校がないの?」(タング、学校へ行くの巻)

 

 

ある日突然庭にあらわれたぽんこつロボット『タング』を中心に、ベンとエイミーのチェンバーズ夫妻が、ひとり娘のボニー、前作「ロボット・イン・ザ・ハウス」でチェンバーズ家の一員となった卵型ロボットのジャスミンを巡って奮闘するシリーズの第3弾。今回は、学校問題、教育問題にベンたちが翻弄される。

「何で僕には学校がないの?」玄関のドアが閉まるや否や、タングが尋ねてきた。
いずれそう言い出す気はしていた。

娘のボニーがプレスクールに通い始めた頃から、ベンはタングが自分も学校に行きたいと言い出すだろうと思っていた。前2作を読んできた読者にも、ベンの気持ちはよくわかる。なにしろタングは、いろいろなことに興味を示すお年頃なのだ。ボニーが毎日通っている学校に興味を持たないわけがない。

一方で、ベンとエイミーは娘ボニーの様子にも気をもんでいた。ボニーは学校でのことをあまり話してくれない。友だちのことも、イアンという男の子がいることしかわからない。プレスクールのときは、スタッフからは「打ち解けるのに時間のかかる子」だけど「学校にあがればきっと変わる」と言われたが、学校にあがってからも学校で何があったか話そうとしなかった。

はじめての保護者面談で担任のフィンチ先生からボニーの学校での様子を聞いたベンとエイミーは、タングが学校に通うことが、ボニーが学校になじむ助けになるのではないかと考える。校長先生との面談の結果、タングは学校に通うこととなり、一躍クラスの人気者になってしまう。だが、ボニーの状況にはほとんど変化はなかった。

ボニーとタングが学校に通う一方で、ジャスミンにも変化が生じる。彼女はオンラインの読書会に参加するようになり、やがてオフラインでの読書会に参加したいと言い出す。タングと違って分別のあるジャスミンだが、顔の見えないオンライン上はともかく直接他のメンバーと会うとなると、彼女がロボットであることが問題になるのではないか。ベンは、付き添いとして読書会に同行するのだが、そこで事件が起きてしまう。

「ロボット・イン・ザ・~」のシリーズは、人間社会に高度な能力を有するロボットが普通に共存している社会を描くSFな設定の小説だが、物語の中心となるのは育児、家庭、教育といった私たちの身近にある問題だ。ボニーを育てるだけでも大変なのに、タングやジャスミンも自分の子ども、自分の家族として受け入れ、真正面から問題に取り組み解決策を模索するベンとエイミーの奮闘ぶりは、ボニーやタングと同じくらいの子どもの育児に追われている親たちには共感できるところがたくさんあるはずだ。

本作では『学校』がテーマの中心にあるが、もっと大きく『社会との関わり』がテーマになっていると思う。親にとっても子どもにとっても、保育園や幼稚園、小学校にあがることは、それまで家庭内にとどまっていた人間関係に他者が加わってくることでもある。友だちとの関係、先生との関係を上手に築ける子どももいれば、なかなか社会になじめない子どももいる。ボニーとタングは、そのそれぞれを具現化したキャラクターであり、ベンとエイミーがその問題にどう取り組んでいくかは、堅苦しい育児書を読むよりも参考になるのではないだろうか。

本書のラストでチェンバーズ家は、ふたつの大きな決断をする。ひとつはボニーの学校問題に関するホームエデュケーションという決断、もうひとつはジャスミンについての決断だ。ネタバレになるので詳しくは書かないが、とても大きな決断とだけ言っておきたい。ホームエデュケーションについては、訳者あとがきに解説されているので、そちらもぜひ。

そして、最後の最後に待ち受けていた最大級の出来事。これは次回に何かまた大きな展開が待ち受けていることを予感させる。チェンバーズ家の奮闘はまだまだ続きそうだ。

 

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