タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ウジョとソナ 独立運動家夫婦の子育て日記(パク・ゴヌン著/ヤン・ウジョ、チェ・ソナ原案/神谷丹路訳)-祖国独立のため活動するウジョとソナ。彼らの子育て日記を通じて見えてくる戦争の過酷さと子どもたちの存在の大きさ

 

 

本書は、大韓民国臨時政府に関わった独立運動家であるヤン・ウジョとチェ・ソナの夫婦が記した日記を原案として描かれたグラフィックノベルである。原案となった日記は、ふたりの間に生まれた娘ジェシーの育児日記となっている。日記には、韓国が日本の植民地支配下にあり、多くの独立運動家が、植民地支配からの解放と祖国独立を目指して活動をしていた当時の時代背景が描かれており、中国国内を転々と移動しながら、日本軍の空襲攻撃の恐怖と闘い、十分とは言えない生活環境の中で懸命に子育てする姿がある。

ウジョとソナが参加した『大韓民国臨時政府』は、1919年の「三・一独立運動」後に上海に渡った独立運動家たちによって結成された組織である。日中戦争が勃発し、日本軍による中国への軍事行動が激化していく中で、大韓民国臨時政府は、上海、鎮江、長沙、広州、柳州、重慶と活動拠点を転々と移動する。ウジョとソナは、臨時政府のメンバーやその家族たちとともに行動しながら、ジェシーを生み育て、ふたりめの娘ジェニーも授かる。いつ日本軍の攻撃があるかわからない緊張と恐怖の日々の中、祖国の独立という大きな目標のために活動し、さらにふたりの娘の子育てにも奮闘する姿は心に迫る。

物語は、1990年代のソウルから始まる。孫娘が部屋に入っていくと、祖母のソナが床に新聞を広げ、テレビとラジオのニュースをチェックしている。それが、ソナおばあちゃんの日課なのだ。なかでも、天気予報のチェックは絶対に欠かさない習慣だった。なぜ、ソナおばあちゃんにとって『天気』が大事なのか。物語は、1938年のジェシー誕生、そしてウジョとソナと祖国独立に向けた活動と子育ての記録へと続いていく。

『天気』がとても重要なワードであることは、本書を読み進めていくとよくわかる。と同時に、戦時中にウジョとソナ、その娘たち、臨時政府の活動メンバーや家族たち、中国の人たちが、いかに緊張と恐怖の日々を過ごしていたかがわかる。その日の『天気』が、彼らにとっては、生きていくために極めて重要なことだったのだ。

私たちは、戦争末期のアメリカ軍による日本への空襲について、戦争体験者の話やさまざまな記録映像などを通して知ることができる。だが、戦争初期に日本軍が中国へ空襲攻撃を行っていたことは知られていない。本書を読んで、当然日本も攻撃する側として無辜な市民に緊張と恐怖の日々を与えていたのだということを考えさせられた。

熾烈を極める日本軍の攻撃の中で、ウジョとソナをはじめ臨時政府のメンバーたちに癒やしを与えていたのが、ジェシーやジェニーのような子どもたちの存在だった。本書には、戦争という非常事態の中でもジェシーが健やかに成長していく様子が描かれている。いつ実現するかもわからない祖国の独立という目標に向かって、先の見えない活動を続けているメンバーたちにとっては、子どもたちの存在が、未来への希望であり、活動のモチベーションとなっていたのだろう。

先日読み終わりレビューを公開した「草 日本軍「慰安婦」のリビングヒストリー」を読んだときにも思ったことだが、私たちはあの戦争のときに、日本が『加害者』として何をしたのかを知らなすぎると思う。日本が、大空襲をされたり原爆を投下されたりして大勢の市民が犠牲になったことは事実だし、南方の過酷な戦場で多くの兵士が犠牲になったことも事実だ。そのことと同じくらいに、日本がアジアの国々に対して行ってきたことも事実として知っておかなければいけない。「草」と「ウジョとソナ」は、私たちが知っておくべき事実を伝えてくれる作品だと思う。

もっと多くの人に読まれてほしい作品である。

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