タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「【改訂完全版】アウシュヴィッツは終わらない これが人間か」プリーモ・レーヴィ/竹山博英訳/朝日新聞出版-アウシュヴィッツから生還した著者が記憶をもとに執筆した悲劇を二度と起こさぬために語り継ぐべき記録。

 

 

アウシュヴィッツやその他のユダヤ強制収容所で起きた悲劇については、数多くの作品が発表されてきた。フィクション、ノンフィクション、映像作品、文芸作品、その他さまざまな形で悲劇は語り継がれているし、これからも未来永劫語り継がれ続ける。

「これが人間か 改訂完全版アウシュヴィッツは終わらない」の著者プリーモ・レーヴィは、1944年にアウシュヴィッツに送られ、1945年にソ連軍によって強制収容所から解放されるまでのおよそ1年間を生き延びた。解放後自宅に戻った著者は、記憶を頼りに本書の執筆をはじめ、1947年に出版された。その後、1958年に第2版が刊行され、これが現在に至るまで読まれ続けている。

本書に記されているのは人間にとってもっとも苛烈な地獄だ。人間が人間としての尊厳をすべて奪われ、心を蝕まれ、考える力生きる力を失っていく。強制収容所の極限の中では、人間はこんなにも変わってしまうのか。

そういう人間の壊れていく様を、著者は自らの記憶から記録へと刻んでいく。アウシュヴィッツで体験したことをすべて残そうとする。それは、著者のみた地獄が忘れられてはいけない歴史だからだ。けっして忘れてはいけない、忘れられてはいけないことだからだ。強制収容所で命を失った者たち、心を壊された者たち、未来を奪われた者たちがいたことを次の世代の人たちに語り継いでいくために本書は書かれたのだと思う。

本書冒頭に掲げられた詩文が印象的だ。以下に全文を引用する。

暖かな家で
何ごともなく生きているきみたちよ
夕方、家に帰れば
熱い食事と友人の顔が見られるきみたちよ。

これが人間か、考えてほしい
泥にまみれて働き
平安を知らず
パンのかけらを争い
他人がうなずくだけで死に追いやられるものが。
これが女か、考えてほしい
髪は刈られ、名はなく
思い出す力も失せ
目は虚ろ、体の芯は
冬の蛙のように冷えきっているものが。

考えてほしい。こうした事実があったことを。
これは命令だ。
心に刻んでほしい
家にいても、外に出ていても
目覚めていても、寝ていても、
そして子供たちに話してやってほしい。

さもなくば、家は壊れ
病が体を麻痺させ
子供たちは顔を背けるだろう。

 

日本でも、戦争が終わってから75年が経過して、戦争を体験した人たちはみな高齢となっている。戦争がいかに悲惨なことか、戦争がいかに人間の尊厳を踏みにじることか、戦争がいかにすべてを破壊するか。もう二度と戦争はしてほしくないと戦争体験者は口をそろえて言う。私たち戦争を知らない世代は、彼らの声をしっかりと聞かなければいけない。そして子どもたちに語り継いでいかなければいけない。

戦争の恐怖、戦争の地獄を語り継いでいくことが、とても大切なことなのだと思った。引用した詩文には、著者のそういう気持ちが強く込められている。