タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

リッジウェイ家の女(リチャード・ニーリィ/仁賀克雄訳/扶桑社)-出てくる人物全員が怪しくみえてくる。どんでん返しの巨匠が描くミステリ小説。

 

 

帯の惹句よれば、著者のリチャード・ニーリィは『どんでん返しの巨匠』なのだという。本書「リッジウェイ家の女」は、そんな『どんでん返しの巨匠』が描くミステリー小説である。

画家のダイアン・リッジウェイは、アートギャラリーで自分の作品を購入した男性と知り合う。彼の名はクリストファー・ウォーレン。アメリカ空軍の元大佐であった。ふたりは恋に落ち、やがて結婚する。ダイアンには、若い頃に一度結婚をしていて、その夫フレッド・リッジウェイとの間にはジェニファーというひとり娘があった。だが、ダイアンとフレッドの結婚は幸福なものではなく、フレッドは猟奇的で抑圧的なDV男だった。ダイアンはフレッドとの異常な生活に耐えてきたが、ついに悲劇が訪れる。ダイアンは夫殺しの罪を負うこととなり、この出来事をきっかけに娘ジェニファーとの関係は疎遠になった。

母親と距離をおいたジェニファーは、家を出ると、モデルの仕事や麻薬患者の更生施設の手伝いなどをして生活し、ハワイでポール・スタフォードという元株式仲買人の男と知り合う。ふたりは恋に落ち、生活の基盤を求めてサンフランシスコで暮らし始める。やがて、新聞記事でダイアンが結婚したことを知り、ふたりは久しぶりの再会を果たす。

不幸せな結婚生活の果てに夫殺しの罪を背負い、ひとり娘とも疎遠になっていたダイアンにとって、クリスは、また恋をしようと思わせてくれる存在だ。クリスの存在によって、ダイアンとジェニファーは一緒に暮らすようになり、親子関係も少しずつ修復されていく。

だが、ダイアン、クリス、ジェニファー、ポールが一緒に暮らし始め、クリスの勧めでダイアンがフレッドから相続した財産の運用をポールに任せるようになってから、話の雲行きはだんだんと怪しくなっていく。

4人の主要な登場人物の誰もが、何かしら暗い過去を持っていて、それぞれが何かしらの確執を抱えている。夫殺しの罪という過去、最愛の父を失ったトラウマ、母親の支配欲に縛られ続けた記憶、といった彼女たちの抱える因縁や確執が、物語の中で登場人物のキャラクターイメージを作り上げている。そのイメージがあるから、読んでいて、登場人物の誰もが怪しい思惑を腹の中に抱いていて、何か事件を起こすのではないかと疑わしく思えてくる。

中盤から後半の展開は、『どんでん返しの巨匠』である著者の真骨頂だ。リッジウェイ家の過去と登場人物たちのつながりが少しずつ読者に示され、もっとも疑わしいと思われる人物に読者の注意をグッと惹きつける。そして、読者の期待したとおりに事件が起きる。だが、そこからの展開がどんでん返しの連続なのだ。ダイアンにせまる危険、ジェニファーにせまる危険、犯人の過去とその狙いが明らかとなり、意外な人物が共犯者であったことも判明する。すべてが解決したと思わせたあとには、最後の大どんでん返しが待ち受けている。

『はじめての海外文学vol.5』で駒月雅子さんが推薦している作品。海外ミステリーの翻訳を数多く手掛けている駒月さんの推薦作だけあって、読み応えのあるミステリー小説だった。