タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「カレンの台所」滝沢カレン/サンクチュアリ出版-「言葉」や「文章」を生業としている人たち全員が羨む才能の持ち主だと思います。

 

 

まず最初にお断りしておくと、この本は『料理レシピ本』です。ですが、書店の店頭に山と積まれた「誰でも簡単!お手軽激ウマレシピ!」とか「料理研究家○○の健康レシピ100選」みたいな普通の料理レシピ本とはまったく違う、滝沢カレンらしい独特なスタイルのレシピ本になっています。

ヘルシーに見えてそうじゃない。
高カロリーに見えてそうでもない。

どちらも決めるのは胃袋ですってことにします。

今回はただただ食べたい、知らない人を知らない唐揚げを久しぶりに作ってみました。

 

これは、最初に登場する料理『鶏の唐揚げ』レシピの書き出しのところの引用です。この書き出し、料理レシピというよりはエッセイのようです。

「カレンの台所」には、鶏の唐揚げをはじめ、ハンバーグ、エビチリ、ピーマンの肉詰め、豚の生姜焼きなど、ごく一般的な家庭料理のレシピが書かれていますが、そのすべてが引用したようなテイストの文章で書かれています。

さらに特徴的なところを紹介していきましょう。同じく『鶏の唐揚げ』レシピから引用していきます。

唐揚げには鶏のもも肉がおすすめですので、ご自分の食べたい分だけお買い上げください。それを子どもの頃に集めたガチャガチャサイズくらいの形に切ります。

普通のレシピ本であれば、鶏もも肉1枚(約300グラム)を一口大の大きさに切りそろえます」といった具合に書くところを、「自分の食べたい分だけ」とか「ガチャガチャサイズ」と表現するのが滝沢カレンテイストだな、と思うのです。で、この書き方で意外とサイズ感がわかりやすかったりするのが面白いところです。「一口大」と書かれるよりも「ガチャガチャサイズ」の方がなんだかイメージしやすい気がする、と考えている時点で私は滝沢カレンの言葉の魔力に取り憑かれているのだと思います。

味付けのところも引用してみます。

まずリーダーとして先に流れるのは、お醤油を全員に気づかれるくらいの量、お酒も同じく全員気づく量、乾燥しきった粒に見える鶏ガラスープの素を、こんな量で味するか? との程度にふります。

「全員に気づかれるくらい」「こんな量で味するか?」など、調味料の量が全然具体的に書かれていません。究極に目分量です。ですが、本当に不思議なことに、こんなアバウトなのに「なるほど、このくらいの感じなのか」と納得できてしまうところがすごいです。

滝沢カレンが料理を適当に作っているわけではありませんし、料理が苦手というわけでももちろんありません。むしろ、彼女は料理好きで料理上手なんだろうと思います。普段の料理も、「醬油は大さじで…」とか「お肉は強火で10分焼いて」とか意識しないで作っているんでしょうね。

料理上手なところはもちろんなのですが、この本の魅力はなんといっても滝沢カレンの言葉のセンス、文章のユニークさにあると思います。いろいろな料理レシピ本がありますが、読むのが楽しいレシピ本は珍しいのではないでしょうか。

鶏の唐揚げを揚げる場面を引用してみます。

170度にいきましたら、パサパサ鶏肉をおにぎりを一握りの気持ちで「いってこい」の後押しで油へ。
すぐさま何かしらの反応を見せたら、あ、楽しくやってるな、と見過ごしてあげてください。

何の反応もしてくれなかったら一旦取り出してください。油がまだ170度ではありませんそれは。

 

鶏肉を油に入れたときの反応を「あ、楽しくやってるな」と表現するところ、わかるようでわからない、でもなんかわかりやすい感じがしてしまうわけです。

テレビではじめて滝沢カレンをみたときは、その独特なワードセンスを笑いの対象としてみていました。ですが、その後朝日新聞の読書サイト「好書好日」での連載「滝沢カレンの物語の一歩先へ」や、彼女のインスタでの長いコメント文などを読むうちに、このセンスはなかなか真似できるものではないし、滝沢カレンのオリジナルな世界観があると思うようになってきました。

book.asahi.com

本書の帯でコピーライターの糸井重里氏が「あたらしい日本語をデザインしている」とコメントしています。言葉や文章を生業としているプロからみても、滝沢カレンのワードセンスは羨望の的なのかもしれないなと思います。

とにかく読んで楽しい本でした。あと、もちろんレシピ本としても間違いなく役に立つと思います。