タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「愛は血を流して横たわる」エドマンド・クリスピン/滝口達也訳/国書刊行会-『世界探偵小説全集』の第5巻。女子生徒の失踪事件を発端に起きる連続殺人事件。事件をつなぐ謎の解明にジャーヴァス・フェン教授が挑む。

 

 

国書刊行会の『世界探偵小説全集』第5巻。学校の終業式を目前にして起きた女子生徒の失踪事件。最初はちょっとした不祥事と思われていたが、ふたりの教師が相次いで殺害されたことで重大事件へと発展する。事件の解決に乗り出すのは、終業式の来賓として居合わせたオックスフォード大学のジャーヴァス・フェン教授である。

カスタヴェンフォード校の終業式を前にして、カスタヴェンフォード女子高校のブレンダ・ボイスという生徒が失踪する。彼女は、失踪する直前にJ.H.ウィリアムズという生徒と密会する約束になっていたが、ウィリアムズはブレンダとは会えなかったという。さらに、理科校舎の化学実験室から劇薬が盗み出されていたことも発覚し、カスタヴェンフォード校のホラス・スタンフォード校長は頭を抱える。

そんな状況の中、アンドルー・ラヴ、マイケル・サマーズのふたりの教師が相次いで殺害される。ふたりは、同じ銃で撃たれて殺されていた。終業式に来賓として招かれていてカスタヴェンフォード校に居合わせたオックスフォード大学のジャーヴァス・フェン教授は、過去の経験から地元警察とともに事件の捜査に乗り出すことになる。現場の状況を調べ、関係者の証言を集め、容疑者をピックアップしていくフェン教授たちだが、その最中に第三の殺人が発生する。カスタヴェンフォード校から4マイルほど離れた田舎家で老女の死体が発見されたのだ。わずか24時間以内に3人が殺害され、ひとりが行方不明となったのである。

「愛は血を流して横たわる」は、エドマンド・クリスピンの長編第5作にあたる作品である(巻末リストより)。巻末に収録されている小林晋氏の解説によると、エドマンド・クリスピンは、オックスフォード大学在学中にジョン・ディクスン・カーの作品に出会ったことで探偵小説に魅了され、自らも探偵小説を執筆するようになった。1944年に処女作「金蝿」を発表し、この作品から探偵役としてオックスフォード大学教授のジャーヴィス・フェンが登場している。フェン教授を探偵役とする長編は9篇刊行されていて7篇が翻訳されている(aga-search.com情報)。

連続する事件の鍵となるのが、3人目の犠牲者である老女ブライ夫人の家で発見されたとされる古文書である。その古文書をめぐってサマーズがブライ夫人の家を訪ねていることや彼の口座から金が引き出されていることも判明する。オックスフォード大学で英文学を教えているフェン教授は、その古文書をめぐって一連の事件が起きたと推測するのである。

本作は、連続殺人事件という異常な犯罪状況を描いているが悲壮感やおどろおどろしさはなく、むしろコメディ的に展開する。フェン教授は完全無欠な名探偵というわけではなく、ところどころでピンチに立たされたりもする。追い詰められた犯人が逃走を図る場面では、犯人、フェン教授、警察がカーチェイスを繰り広げるのだが、フェン教授の愛車はトラブルを起こし、警察の犯人追跡を邪魔する格好になってしまったりして、緊迫する場面なのに笑えてしまう。

「消えた玩具」という作品と並んで、エドマンド・クリスピンの代表作にもあげられるという作品だけに、クリスピン初読みの私でも楽しく読むことができた。

これで『世界探偵小説全集』も第一期10巻の半分まで読んできた。次はシリル・ヘアーの「英国風の殺人」である。これまた全然知らない作家だけに、どんな作品か期待と不安が半々である。