タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「嵐をしずめたネコの歌」アントニア・バーバー作、ニコラ・ベイリー絵/おびかゆうこ訳/徳間書店-イギリスに古くから伝わる伝説をもとにした物語。大嵐で荒れ狂う海に出た老いた漁師とネコの運命は?

 

 

この作品は、イギリスのコーンウォール地方に古くから伝わる、トム・バーコックという漁師の伝説をもとにした創作です。

本書「嵐をしずめたネコの歌」冒頭の謝辞で、作者のアントニア・バーバーはそう記しています。今からおよそ500年前にイギリスのコーンウォール地方にあるマウスホール村に暮らしていたトム・バーコックという漁師が大嵐に襲われて食料がなくなってしまった村のために命がけで漁に出て、魚をとって村を救ったという伝説です。

「嵐をしずめたネコの歌」の舞台もマウスホール村です。その村に、トムという年老いた漁師とモーザーという老猫がいっしょに暮らしていました。モーザーは、たくさんの子どもを産んだめすネコです。トムとモーザーはなかよく暮らしていました。

トムはとても腕のよい漁師です。トムは、モーザーのためにとってきた魚でいろいろな料理をつくってくれました。シチューやグリル、この地方の名物料理イワシのパイです。

ある冬にたいへんなことが起こります。大きな嵐におそわれたのです。

〈嵐の大ネコが、あばれだしたんだわ!〉

モーザーは気づきます。大嵐はいつまでも続いて、漁師たちは海にでられなくなります。食べるものがどんどんなくなっていきました。このままではたいへんなことになってしまいます。トムは、命がけで涼に出ることを決意します。モーザーもいっしょです。こうして、トムとモーザーの嵐の大ネコとの命がけの戦いが始まったのでした。

トムとモーザーが、いかにして嵐の大ネコに立ち向かい、マウスホール村の人々を救ったのか。その顛末をここに書いてしまうと、この物語を読む意味がなくなってしまいますので、このレビューでは割愛します。本書のタイトルが「嵐をしずめたネコの歌」となっているところから、なんとなく察せられると思います。

作者の謝辞や訳者あとがきにあるように、この物語の元となったのは実際にあったトム・バーコックの伝説です。ネットで調べてみると、この物語にも登場するイワシのパイが、トム・バーコックの勇気を讃えて作られた『スターゲイジーパイ』であるという記述をみつけることができます。

『スターゲイジーパイ』という名前を聞いても馴染みがないのでピンときません。この物語の中ではこんなふうに説明されています。

コーンウォールの名物料理、星空を見あげるイワシのパイ。パイ生地から頭をつき出したイワシが、まるで星空をながめているように見えるのです。

本書54ページのイラストにイワシのパイが描かれています。また、ネットで『スターゲイジーパイ』を画像検索すると写真もたくさん見つかります。見た目のインパクトはなかなかなものです。個人の感想ですが、あまり美味しそうな感じはしませんね(コーンウォール地方出身の方がいたらごめんなさい)。

スターゲイジーパイのインパクトはなかなかなものですが、ひとりの勇敢な漁師の伝説が、その地方で長く讃えられて名物料理まで生み出したのですから、トム・バーコックがいかにコーンウォール地方の人々に愛されているかがわかります。

イワシのパイの話にとんでしまいましたが、「嵐をしずめたネコの歌」の物語の魅力はそれだけではありません。この物語は、年老いた漁師トムと老猫モーザーの愛情と勇気に満ちたお話です。長く生活をともにした老人とネコ。その信頼関係は、現実の世界にもある関係だと思います。ひとりと一匹がともに手を携えて、嵐の大ネコに立ち向かう姿、そしてその結末。トムとモーザーの物語は、いつまでもマウスホール村の人々に語り継がれることでしょう。トム・バーコックの伝説のように。