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【書評】ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」(早川書房)-むかしむかし、遠い宇宙でひとりの少女が新しい命と出会った

人類が宇宙へと足を踏み出してから半世紀以上のときが過ぎた。

たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

 

人類が宇宙に進出する前から、空想の世界では人類は宇宙へ飛び出していて、太陽系はおろか、もっともっと遥か彼方の深遠なる銀河の果てまで進出している。そこでは、人類以外の異星人との出会い(ファースト・コンタクト)があり、平和的な関係を構築している場合もあれば、戦いに明け暮れている世界もある。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアたったひとつの冴えたやりかた」は、ファースト・コンタクトを描くSF中編である。

 

父親から宇宙船を買い与えてもらった15歳の少女コーティー・キャスは、遠く連邦の辺境まで冒険の旅に出ようとしていた。もちろん、彼女がそんな冒険に乗り出そうとしているとは、宇宙船を買い与えた両親も知らない。だが、子どもというのは、たいていの場合に親の思惑とは真逆の行動に出るものである。それは、コーティーも例外ではない。

こうして彼女は旅に出た。その途中で、彼女はメッセージ・パイプを回収する。そこには、行方不明になったボーニイとコーが発信したメッセージとともに、ある生物が付着していた。極めて微小なナノサイズの生命体は、コーティーの脳内に寄生し、彼女の思考を利用して彼女にコンタクトを図ってきた。イーアドロンという種族に属する生命体をコーティーはシロベーンと呼び、シロベーンは彼女をコーティーと呼ぶようになる。ふたりはこうして意気投合し、旅を続けることになる。

表題となっている「たったひとつの冴えたやりかた」とは、コーティーとシロベーンの旅があるトラブルに遭遇することになったときに、彼女たちが選択した方法を指している。それは、彼女たちの冷静な判断力と強い決断力と勇気を示す「やりかた」である。彼女たちを伝説に昇華させる、唯一無二のまさに「たったひとつの冴えたやりかた」である。

本書は、人類と異星人とのファースト・コンタクトと精神の交流、理解を描くことが主題であるが、それとともに広大かつ深遠な宇宙を冒険することの危険とそれに立ち向かう勇気、そして15歳の少女の成長を描く作品となっている。それは、もしかすると近い将来に現実にあるかもしれないことなのだ。

本作は、1985年に発表された。もっと古い時代の作品かと思っていたので、これはちょっと意外だった。日本での翻訳刊行は1987年。今回とりあげたのは改訳新装版で2008年の刊行である。初出が1985年ということで、まだ古典SFのカテゴリーに入れるには新しい気もするが、SFジャンルにおいて代表的な作品であることは間違いないと思う。

 

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