タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」(東京創元社)-#はじめての海外文学 Vol.2ビギナー篇より。あるひとりの失踪した少女の行方と謎を地道に追いかける警察。1952年刊行の“警察小説”のパイオニア

ミステリー小説のジャンルのひとつに、“警察小説”がある。大尿的な作品としては、エド・マクベインの「87分署シリーズ」があるし、最近だとユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Qシリーズ」が人気になっている。日本国内に目を向けても、今野敏「隠蔽捜査シリーズ」があるし、小説ではないけれど、ひと昔前には「太陽にほえろ!」や「西部警察」のような“刑事ドラマ”が人気だった。

続きを読む

【書評】村山早紀「桜風堂ものがたり」(PHP研究所)−桜の花に囲まれてある小さな書店は、本を愛する人たちを優しく迎えてくれる。書店への愛と書店員への愛が溢れた作品

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

 
桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

 

自分を重度の活字中毒と自負する者として書店に足を運ぶことは、もはやルーチンワークといってよい。

書店に行ったときに楽しみにしていることがある。それは、その書店独自のフェアであったり、ときに“カリスマ”と呼ばれるような名物書店員さんによるオススメ本だったりする。今年(2016年)10月に、書評サイト「本が好き!」と連携してレビュアーによる選書フェアを展開した「BOOKPORT大崎ブライトタワー店」では、毎月入れ替わりで店頭のフェア棚を出版社などに貸し出して、既存のフェアとは違う独自のフェアを展開しているし、他にもそのような取り組みをしている書店は増えてきている。

「桜風堂ものがたり」の著者村山早紀さんの存在を知ったのも、「BOOKPORT大崎ブライトタワー店」での「本が好き!」フェアに著書「ルリユール」が並んでいたからだった。

続きを読む

【書評】エドワード・ケアリー「堆塵館~アイアマンガー三部作(1)」-まったく先の読めない壮大なアイアマンガー三部作の幕開けを飾る作品。物語のもつ力強さと読者を取り込むワクワク感を存分に味わえる

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 
堆塵館 アイアマンガー三部作

堆塵館 アイアマンガー三部作

 

この小説を特定のジャンルにあてはめるのは難しいし、あまり意味のあることだとは思えない。

続きを読む

【書評】ヴァレンタイン・デイヴィス「34丁目の奇跡」(あすなろ書房)-ひとりの老人が起こす奇跡。彼は本当にサンタクロースだったのだろうか? #はじめての海外文学 Vol.2 ビギナー篇より

34丁目の奇跡

34丁目の奇跡

 

気がつけば12月も半ばに差し掛かり、年末の慌ただしい喧騒が街にあふれる時期となりました。

この時期、多くの人たちの心をワクワクさせるのはクリスマスですね。恋人と過ごすクリスマス。家族と過ごすクリスマス。ひとり寂しく過ごすクリスマス。仕事に追われて過ごすクリスマス。クリスマスの過ごし方は人それぞれだと思います。

ところで、サンタクロースの存在をいつまで信じていましたか?

続きを読む

【書評】「〆切本」(左右社)−〆切、それは永遠に解決されない課題である

〆切本

〆切本

 
どんな仕事でも“〆切”というものはあります。私のような一般的な会社員でも、“納期”という名の〆切があります。納期(〆切)直前になると、職場は修羅場と化し、オフィスのそこここで怒号が飛び交い、社員はどんどん疲弊していきます。まだ多少なりとも余裕のあった頃には、ドリンク剤などを差し入れにプロジェクトの様子を見に来ていた部長も、納期ギリギリまで押し迫ってくる頃には、メンバーの殺気立った雰囲気に恐れをなして近づかなくなります。どうにか納期に間に合わせてプロジェクトを終わらせることができて振り返ると、そこにはメンバーの屍が累々と横たわっている。そんな感じです。
 
いま話題になっている「〆切本」を読みました。けっこう売れているらしい。

【書評】チョン・セラン「アンダー、サンダー、テンダー」(クオン)-韓国の地方の町で出会った6人の高校生の成長と青春の記録 #はじめての海外文学 ビギナー篇より。

アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)

アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)

 

 

「どうしてアンダー、サンダー、テンダーなの」
ジュヨンが青い画面の上に小さく出たファイル名をキャッチしていたらしい。そしてそのファイル名がどこからきたのかも、すぐにわかったはずだ。
「ある年齢じゃないかな」
「年齢?」
「アンダーエイジ、サンダーエイジ、テンダーエイジ」

本書のタイトル「アンダー、サンダー、テンダー」は、日本語訳にあたってつけた邦題であり、原著タイトルは「これくらい近くに」なのだと訳者あとがきにある。原題は編集者がつけたもので、もともと著者は「アンダー、サンダー、テンダー」とつけていたそうで、翻訳版で著者の意向に応えたということになる。

続きを読む

【書評】ドナ・タート「ゴールドフィンチ(4)」(河出書房新社)-「ごしきひわ」を巡って舞台はオランダ・アムステルダムへ。第1巻~第3巻に張り巡らされてきた伏線が回収され、物語は終焉を迎える

ゴールドフィンチ 4

ゴールドフィンチ 4

 
ゴールドフィンチ 4

ゴールドフィンチ 4

 

全4巻にわたる長編もいよいよラストとなった。これまでに張り巡らされてきた伏線の数々がどのような形で回収されるのだろうか。

続きを読む