タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】夏目漱石「夢十夜」−漱石が綴る10の夢物語。どのお話が好きかで性格診断とかできそう(笑)

夢十夜

夢十夜

 

こんな夢を見た。

この書き出しが印象深い夏目漱石の短編集が「夢十夜」です。久しぶりにKindle無料版で再読(再々読あるいはそれ以上かも)してみました。意外だったのは、10篇全部が「こんな夢を見た」で始まるものと思い込んでいたんですけどね、実際には、第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の4篇だけで、その他6篇はそれぞれに異なる書き出しで始まっていたんですね。そんな思い込みも、やはりこの書き出しの印象が強く残っていたからでしょうか。

続きを読む

【書評】ハン・ガン(韓江)「菜食主義者」(クオン)− #はじめての海外文学 ビギナー篇の1冊。突然肉食を拒否するようになった女性と家族の崩壊する様が描き出す人間の狂気と恐怖

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

 

「菜食主義者」というタイトルから、ベジタリアンを主人公にしたストーリーが展開するのだろうと考えてはいけない。この本は、そんなに生易しいものではなかった。

韓国の女流作家ハン・ガンの「菜食主義者」は、「菜食主義者」、「蒙古斑」、「木の花火」の3篇で構成される連作集である。物語全体の中核に存在するのが、ある日突然肉食を拒否するようになった女性ヨンヘであり、「菜食主義者」は彼女の夫の視点、「蒙古斑」は彼女の義理の兄の視点、「木の花火」は彼女の姉の視点で描かれる。

続きを読む

【書評】横溝正史「獄門島」(角川書店)-“獄門島”という横溝正史のネーミングセンスに改めて感服でございます

獄門島」-実に強烈なインパクトのタイトルだと、改めて感じる。瀬戸内海に浮かぶ絶海の孤島という舞台設定と「獄門島」というネーミングの相乗効果が、本書のおどろおどろしい雰囲気を醸成しているのだと感じる。

続きを読む

【書評】ドナ・タート「ゴールドフィンチ(3)」(河出書房新社)-いよいよ物語はラストに向けて加速し始める

ゴールドフィンチ 3

ゴールドフィンチ 3

 
ゴールドフィンチ 3

ゴールドフィンチ 3

 

第1巻のレビューの最後で、「一気読み必至」とか書いておきながら、図書館で1巻ずつ借りてきているのと、間に別の本を読んだりしていることもあって、どうしても一気読みとはいかずに間が開いてしまっている。今回も、前巻からおよそ1ヶ月も過ぎて、ようやく「ゴールドフィンチ(3)」を読了した。

続きを読む

【書評】金子薫「鳥打ちも夜更けには」(河出書房新社)-“架空の港町”で鳥打ちを生業とする3人の男たちを描くファンタジー

鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには

 
鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには

 

小説にリアリティを求めるかファンタジーを求めるか。好みは読者ひとりひとり異なる。徹底してリアルな設定や描写を好む読者もあるし、現実からの逃避を求めて非現実的なファンタジーを求める読者もあるだろう。

金子薫「鳥打ちも夜更けには」は、リアルとファンタジーの間のどちらかというとファンタジーよりに位置する物語だ。

続きを読む

【書評】村田沙耶香「コンビニ人間」(文藝春秋)−定められたマニュアルの沿って動く。安心よりも恐怖を感じる作品

コンビニ人間 (文春e-book)

コンビニ人間 (文春e-book)

 
コンビニ人間

コンビニ人間

 

先日、新聞の読者投稿ページに掲載された投書のひとつを読んだ。投稿主は70代の男性。内容は、コンビニでタバコを購入する際に毎回求められる年齢確認について、どう考えても見た目で成人とわかる自分のような老人に対しても年齢確認をさせるのは意味がなく、もっと臨機応変に対応できないのか、というものだった。

村田沙耶香「コンビニ人間」は、第155回芥川賞を受賞した作品である。そして、「アメトーーク!」の「読書芸人」の回でピース又吉、オードーリー若林のふたりが2016年のオススメとしてあげたことで、また盛り上がりを見せている作品でもある。

続きを読む

【書評】ウィリアム・トレヴァー「アイルランド・ストーリーズ」(国書刊行会)-追悼ウィリアム・トレヴァー。短編の名手による母国アイルランドの風景と対比する人間の姿

アイルランド・ストーリーズ

アイルランド・ストーリーズ

 

2016年11月20日、アイルランドの作家ウィリアム・トレヴァー氏が亡くなった。享年は88歳。ノーベル賞候補とも言われていた短編小説の名手の訃報に心より哀悼の意を表したいと思う。

ところで、私はこの短編小説の名手である作家の熱心な読者ではない。そんな不熱心な読者である私が、唯一読んでいたのが本書「アイルランド・ストーリーズ」である。

続きを読む