タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

コリン・アダムス/小宮太郎訳「ゾンビ対数学~数学なしでは生き残れない」(技術評論社)-発生当初、ゾンビは指数関数的に増加します。しかし、エサとなる人間の数が減少すればゾンビは減少に転じ、ゾンビの減少によって人間の数が増加に転じます。これはすべて数学的に説明できます。

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ゾンビ対数学 数学なしでは生き残れない [ コリン・アダムス ]
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まず最初にお断りしておかなければいけない。本書をゾンビが出てくるスプラッターなホラー小説として期待するのはやめておいたほうがいい。頑張って読むというのを無理に止めるつもりはないので、読む読まないは個人の自由だが、たぶん途中でつらくなると思う。

本書「ゾンビ対数学」は数学書である。ゾンビが登場するしホラー的な要素もあるが、軸は数学、それも微分積分にある。内容はこんな感じ。

・関数 f(x) の導関数 f'(x) は、そのグラフの位置 x における接線の傾きに等しい。

・ある時刻 t におけるゾンビの数を Z とすると Z は以下の数式で算出できる。

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・ゾンビと人間の共存性については、捕食者と被食者の関係から、ロトカ-ヴォルテラ・モデル(捕食-被食モデル)によって求めることができる。

 

微分積分、代数、統計学などの数学や物理の基本的な知識があれば、本書はそれなりに面白いだろう。高校2,3年生くらいの知識だろうか。ただ、専攻が文系だったという方だと厳しいかもしれない。なにしろ、本文中には数式や数学用語が頻出する。数学書なのだから当たり前だ。なので、最初に断ったとおり、ホラー小説として読むのはやめておいたほうがいい。

一応ストーリーはあるので簡単に説明しておくと、主人公はクライグ・ウィリアムズというロバーツ大学数学科教授である。彼が授業をしているとチャーリーという生徒が遅刻して教室にやってくる。どうも様子がおかしい。チャーリーは、ミーガンという生徒の首に喰らいついたのだ。たちまちパニックになる教室。チャーリーはゾンビになっていた。そしてミーガンも。クライグは、大学に残っていた事務員のマーシャ、生物学科教授のジェシー、同じ数学科教授のオスカー、学生のアンガスらとともに、どうしたらゾンビと戦い、生き残れるかを数学の知識をフル活用して導き出していく。果たして彼らは生き残れるのか。そして人類の未来はどうなってしまうのか。

ネタバレ云々するような本ではないと思うので結末を明かしてしまうと、ゾンビと人間は捕食-被食モデルの関係から互いに増加と減少を繰り返しながら、程よいバランスの中で共存することになる。クライグたちは、ゾンビの習性(直進方向にしか進まない、寒さに弱い、など)を理解し、効率よくゾンビから逃れる手段を身につけていく。

面白いのは、ゾンビが人間を捕食する存在であっても、捕食によって人間を絶滅に追いやる存在には至らないところだ。本書では、ゾンビは死者が蘇った存在ではなく生き物であるとしている。生き物であるから活動にはエネルギー源が必要であり、それが人間の肉だ。なので、ゾンビに襲われた人間は、感染してゾンビになる場合もあれば、ゾンビの食料として食い殺される場合もある。

捕食-被食の関係の中で、捕食者であるゾンビが指数関数的に増加したとしても、食料となる人間が減少すればゾンビの増加も頭打ちとなり、そこからは減少に転じる。食料がなくなればゾンビといえども飢えて死ぬしかない。ゾンビが減少すれば、天敵がいなくなるので人間の方が増加に転じる。だが、ある程度まで増えていくとゾンビのエサが増えることになるので、今度はゾンビが増加に転じ人間は減少する。

数学嫌いの人は、「数学なんか勉強しても社会に出たら役に立たない!」と力説する。だが、本書を読む限りでは、あらゆることはすべて数学によって説明できるし、数学によって解決できる。

「数学って素晴らしい!」「数学最高」となるかは不明だが、数学が何かの役に立つものだということはわかったような気がする。