ガタガタ書評ブログ

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スーザン・プライス/金原瑞人訳「ゴースト・ドラム」(サウザンブックス)-雪と氷の世界を舞台に、残虐非道な皇帝、さらに極悪な女帝、高い塔に幽閉された皇子、そして魔法使いによって繰り広げられる物語。約26年ぶりの新訳。

ゴーストドラム

ゴーストドラム

 

 

ファンタジー小説をあまり読みつけていないので、本書の魅力がどのくらい理解できているか、やや不安なところがある。

スーザン・プライス「ゴーストドラム」は、1987年にカーネギー賞を受賞したファンタジー小説で、1991年に金原瑞人訳で福武書店(現在のベネッセ)から翻訳刊行された。その後、長らく絶版状態であったが、同じく金原瑞人訳で改訳され、サウザンブックスより刊行されたものである。タイトルの「ゴーストドラム」とは、作中で魔法使いが使っている太鼓の名前だ。

 

物語の舞台は、皇帝が治めるとある国。その国は、1年の半分が暗く冷たい冬という場所で、溶けることのない雪と氷によって閉ざされている。

ある冬至の夜。ひとりの魔法使いの老女が一軒の家を訪れるところから物語は幕を開ける。その夜、その家に住む奴隷女が赤ん坊を産んだ。老魔女は、その赤ん坊を譲り受けるためにこの家に来たと告げる。「怖がることはない、お前が腕に抱いている赤ん坊を、あたしは百年待っていたのだ」と。赤ん坊はチンギスと名付けられ、老魔女によって魔法使いとして育てられる。

この国を治めているガイドン皇帝は、自らを地上の神と呼び、皇帝の位のために兄弟、いとこを皆殺しする残虐非道な男だ。唯一妹のマーガレッタ姫だけが殺されずに済んだのは、彼女がまだ幼かったからで、皇帝は今になってそのことを後悔している。

ガイドン皇帝の后には、ファリーダという若い奴隷女が選ばれた。ファリーダにはカトリーナという名前を与えられ、彼女は皇帝の世継ぎを身ごもる。しかし、ガイドン皇帝は生まれくる我が子が自分の脅威となること危惧し、身重のファリーダを宮殿の高い塔のてっぺんにこしらえた小部屋に閉じ込めてしまう。ファリーダはその部屋でサファ皇子を産み、命を落とす。サファ皇子は、マリエンという奴隷女の乳母として、その小部屋に幽閉されたまま外の世界を知らずに成長する。

残虐非道な皇帝と、彼の意向に逆らえず理不尽な命令を唯々諾々と仕える忠臣たち。彼の後釜を狙う兄以上に極悪な妹姫と、俗世間に触れることなく幽閉された小部屋で成長した純真無垢な皇子と彼に手を差し伸べる魔法使い。そして、魔法使いの才能に嫉妬するもうひとりの魔法使い。登場人物は多くなくて、敵と味方の構図が明確に設定されている。それぞれのキャラクターの造形もわかりやすく、悪人は悪人、正義は正義と明確だ。

トーリー展開も直球でブレがない。なので、ファンタジー小説をあまり読み慣れていない私でも、すんなりと物語の世界に入ることができる。全15章で構成されていて、ひとうひとつの章は長すぎもしないちょうどよいボリュームで、トントントンとリズムに乗って読み進めることができる。物語的な盛り上がる場面も、あっと驚くようなサプライズも用意されているから途中で飽きることもない。

ラストはひとつの物語してスッと着地しているのだけれど、なんだか話の先が気になる終わり方になっている。訳者あとがきによれば、本書は三部作の第1部であり、以降「ゴーストソング」、「ゴーストダンス」と続くという。となれば「三部作のすべてを読みたい」と思うのは本読みの性である。しかし、本書以外の2作品は翻訳出版がされていない。現在、サウザンブックスでは第2部、第3部の翻訳出版を計画していて、その資金をクラウドファンディングで募る予定になっている。

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ゴーストドラム紹介ページ

まず、本書を読んでみてほしい。電子書籍版なら500円で入手できる。読んでみて面白いと感じたら、将来クラウドファンディングがスタートした時に支援すればいい。自分が支援することで、埋もれた作品が日の目を見るかもしれない、というのはなんともワクワクする話だと思う。