タカラ~ムの本棚

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「犬は知っている」大倉崇裕/双葉社-ファシリティドッグとして入院患者の心に寄り添うピーボには、ある特別な裏の任務があった

 

 

世の中には働くワンコがたくさんいます。代表的なのは警察犬や災害救助犬盲導犬や空港の検疫で働く動植物探知犬といったところでしょうか。

本書に登場するゴールデン・レトリバーのピーボ(7歳・オス)は、ファシリティドッグとして働くワンコです。ファシリティドッグとは、病院で入院患者のケアをサポートする目的で育成されているワンコで、看護師の資格を持つハンドラーと一緒に活動します。ピーボの所属する病院は警察病院。ハンドラーは笠門達也巡査部長です。

ピーボが活動するのは主に小児病棟です。入院する子どもたちに寄り添い、治療への不安や手術への不安、入院生活の不安などを癒やす存在として、子どもたちの人気者です。

しかし、ピーボと笠門には、小児病棟でファシリティドッグとして子どもたちを癒やす他に特別な任務があります。それは、警察病院の最上階である7階の特別病棟に入院する余命わずかな囚人患者から、彼らしか知らない秘密を聞き出すという任務。ピーボに心を許した患者が話した秘密をきっかけに、笠門は事件を再捜査し、新たな真実を導き出すのです。

本書は、ピーボと笠門のコンビが特別病棟に入院する囚人患者から聞き出した秘密を元に事件の謎に迫る連作短編集です。5つの短編が収録されています。

第一話 犬に囁く
第二話 犬は知っている
第三話 犬が寄り添う
第四話 犬が見つける
最終話 犬はともだち

セラピードッグは聞いたことがありましたが、ファシリティドッグという働くワンコがいることは本書を読んで初めて知りました。作中の笠門の言葉から引用します。

「あの犬は警察犬なんですか?」
よく尋ねられる質問だった。
「違います。ピーボはファシリティドッグとしての訓練を受けた犬で、警察犬ではないんです」
「ファシリティ?」
「こうした病院で患者さんに寄り添う、つまり、恐怖や苦痛といった精神面の負担を和らげるために働いている犬の事です。セラピードッグとも、少し意味合いが違ってくるんですよ。特定の病院に常駐するための専門的な訓練も受けています。能力がないとなれないですし、患者の治療計画にも介入します」

ネットでファシリティドッグを検索すると、まだ数は少ないものの、いくつかの主に小児科病棟で導入されているようです。病院専属で働いているため、そこに入院する患者に合わせた介入計画を立てられるなどのメリットがあるとされています。

著者の大倉崇裕さんは、「福家警部補シリーズ」や「警視庁いきもの係シリーズ」など、警察を舞台にしたシリーズ作品を手掛けるミステリ作家です。福家警部補のような個性的なキャラクターを主人公とした作品は、ドラマ化もされるなど人気があります。ファシリティドッグのピーボを登場させた本作も、ピーボのハンドラーである笠門巡査部長や、彼が所属する警視庁総務部総務課の課長である須脇警視正、ピーボと笠門が捜査する事件の資料や情報を提供してくれる資料編纂室の五十嵐いづみ巡査といった個性的なキャラクターたちが登場し、いつでもテレビドラマ化できそうな作品になっています。

これまでにも、犬と人間がコンビを組んで事件に挑む作品はありましたが、その多くは警察犬と刑事のコンビがほとんどだったと思います。今回、ファシリティドッグという、まだ世間的にはそれほど浸透していない存在に着目し、ミステリとして作品にした著者のアイディアが面白いと思います。1話完結の連作短編というスタイルなので読みやすく、気楽に読めるのも良いところ。ピーボの魅力もあいまって人気シリーズとなるのではないでしょうか。次回作でのピーボと笠門巡査部長のコンビの活躍が楽しみです。