タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

エリザベス・ウェイン/吉澤康子訳「コードネーム・ヴェリティ」(東京創元社)-謎に満ちた第一部と対になる第二部。その見事な構成と物語としての完成度に驚愕した。作品評価の高さに納得!

「コードネーム・ヴェリティ」は、『第一部ヴェリティ』『第二部キティーホーク』の二部構成になっている。

『第一部ヴェリティ』は、ドイツに潜入したものの拘束され捕虜となった諜報員クイーニーによる『告白書』である。彼女は、ショーツ1枚の姿で椅子に縛りつけられ、ナチス親衛隊大尉であるフォン・リンデンによる苛酷な尋問を受けている。辱めを受け、女性としての、いやそれ以上に人間としての尊厳を踏みにじられている。

私は臆病者だ。

クイーニーは『告白書』の冒頭にそう記す。屈辱にさらされ、いくつかの秘密(無線暗号や周波数)と引き換えに服を取り戻していく。最後に彼女は、残された暗号一組と交換に紙とインクと時間を手に入れる。リンデン大尉は、イギリスにおける民間人の戦時協力について思い出せるすべてを告白することを命じた。

第一部に記されるクイーニーの告白は、しかし単純な告白文ではない。彼女が記したのは、まるで小説のように描かれたものだった。

なぜ、彼女はそのような形式で告白文を記していったのか。

時間稼ぎのためか?
ナチスを欺くためか?
彼女は何を守ろうとしているのか?

クイーニーの記す告白文を読みながら、読者である私の頭にはたくさんの謎が渦巻き続けた。それは、クイーニー自身への苛酷な尋問であったり、彼女の同じ場所に拘束監禁されているフランス人レジスタンスへの拷問の凄惨さと相まって、強烈な印象を植え付ける。

囚われた諜報員の告白である第一部と対になるのが、『第二部キティホーク』である。

第二部は、クイーニーを諜報員として現地に送り届ける役割を担った飛行士マーガレット(マディ)・ブロダットが書いた記録となっている。

クイーニーを現地に送り届けたマディは、飛行機のトラブルで不時着しレジスタンスに救出される。そこで彼女は、レジタンスの家族や仲間と生活をともにし、諜報員として送り出した友人の安否を気に病みながらレジスタンス活動を手伝う。

第二部の内容をあれこれと書き連ねるのは、本書の重大なネタバレになってしまうので、ここでは簡単に紹介するにとどめておく。ひとつ言えるのは、もし第一部を読んでいて話に乗れなかったとしても、そこは頑張って読み切って第二部にたどり着いてほしいということだ。第一部で描かれる様々な謎や伏線は、第二部で見事に回収される。その見事さこそが、本書の最高の魅力だと思う。もちろん、『どうしてクイーニーは告白文を物語のように書いたのか』という謎も、本書を最後まで読めばわかると思う。

本書の姉妹編である「ローズ・アンダーファイア」が刊行されたのをきっかけに1年以上積んでいた本書をようやく手にとった。もっと早く読んでおくべきだったという後悔もあるが、2冊を続けて読める幸せというのもあるかもしれないとも感じている。

ローズ・アンダーファイア (創元推理文庫)

ローズ・アンダーファイア (創元推理文庫)

 
ローズ・アンダーファイア (創元推理文庫)

ローズ・アンダーファイア (創元推理文庫)