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【書評】エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「アルヴァとイルヴァ」(文藝春秋)-《陽》のアルヴァと《陰》のイルヴァ。対照的な双子の姉妹は、どのようにエントラーラの町を救ったのか?

アルヴァとイルヴァ

アルヴァとイルヴァ

 

 

2016年に読んだ本の中でエドワード・ケアリー「堆塵館」はかなりお気に入りの作品だ。予定では、2017年5月に「アイアマンガーⅢ部作」の第2巻「穢れの町」が刊行されるとのことで、非常に楽しみである。とはいえ、あと5ヶ月ほどあるので、その間にエドワード・ケアリーの過去作を読んでおこうと思い立った。そこで今回手にとったのが、「堆塵館」の前作にあたる「アルヴァとイルヴァ」である。

※以下レビュー中にネタバレになっている記述がありますので、未読の方はご注意ください※

 

「アルヴァとイルヴァ」は、エントラーラという、何処ともしれぬとある町を舞台にしている。そこに暮らす双子の姉妹アルヴァとイルヴァが主人公だ。本書は、アルヴァが書き残した手記にアウグストゥス・ヒルクスが前書きや附記を付け加えたという形式になっている。エントラーラという町の観光ガイドブックとしての役割もあり、この本を持っているとエントラーラにある様々なお店で優待を受けることができるとされている。

目次の冒頭には、

ようこそ、町を救ったアルヴァとイルヴァの人生へ

とある。「町を救った」とはどういうことだろう。読者は、アルヴァとイルヴァがどのような奇跡を起こしたのかと、物語の展開を想像しつつ読み進めていくことになる。

アルヴァとイルヴァは、郵便局長の娘ダリアと郵便局に勤める配達員ライナスとの間に生まれた双子の姉妹だ。アルヴァとイルヴァが生まれた日、父ライナスはこの世を去る。ふたりは、母ダリアによって大事に育てられることになる。ふたりは常に一緒だ。学校でも隣の席に座り、片時も離れることはない。成長するにつれて、アルヴァは明るく外向的な性格となり、イルヴァは無口で内向的な性格を表すようになっていく。

ふたりはプラスティック粘土で町の模型をつくる。その模型は次第に拡張していく。最初は稚拙で不格好だった粘土の町は、やがて精密でリアルな模型へとグレードアップしていく。

成長するにつれ、外向的というよりも奔放さを身につけるようになっていくアルヴァとますます内向的で陰にこもるようになっていくイルヴァ。読者としては、本当にこんなふたりが町の危機を救うのだろうかと疑心暗鬼になっていく。なぜなら、彼女たちには英雄的な要素がなにも感じられないのだから。

そもそも、エントラーラの町を襲う災厄とはなにか。それは地震だ。エントラーラの町は、マグニチュード7.5の巨大地震によって崩壊する。アルヴァとイルヴァの祖父が局長を務め、両親が出会い結ばれ、アルヴァも働いた中央郵便局も崩壊し、エントラーラは一瞬にして瓦礫の町と化す。

アルヴァとイルヴァは幸いにも怪我もなく巨大地震を生き延びる。ふたりは傾いた家からプラスティック粘土で製作した町の模型を運び出す。この崩壊前の町の模型こそが、やがてふたりをエントラーラの救世主へと導くことになるのだ。

町を救った双子、というポイントでこの物語を読むと、何か物足りない、もっと厳しく言うと期待はずれの印象を受けるかもしれない。実は、私もアルヴァとイルヴァがどういうことで町を救ったのかを知った時は一瞬「え~」と思ってしまった。だけど、読み終わって考えてみると、この本は『英雄譚』というわけではないのだと気づいた。この物語は、ちょっと風変わりな双子の姉妹の人生を描いた成長物語であり、その人生の中で偶然彼女たちの暮らす町が災厄に見舞われ、たまたま彼女たちが作っていたプラスティック粘土の模型が町の再建に役立ったというエピソードが存在するということなのだ。

本書は、2004年に翻訳刊行されたエドワード・ケアリーの第2作にあたる。デビュー作「望楼館追想」から「アルヴァとイルヴァ」を立て続けに敢行したケアリーだが、第3作となる「堆塵館」までは実に10年以上のブランクがある。本書の訳者あとがきには、大長編となる「Solitary Walker」を執筆中とあるが、この「Solitary Walker」が頓挫して書かれぬままに終わったのか、もしくは「堆塵館」へと昇華したものなのかが気になるところだ。

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堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

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望楼館追想 (文春文庫)

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