タカラ~ムの本棚

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エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「肺都~アイアマンガー三部作(3)」(東京創元社)-『堆塵館』、『穢れの町』と続いてきたアイアマンガーの物語がついに完結!クロッドは、ルーシーは、ビナディットは。彼らの運命はどうなってしまうのか?とにかく凄い!すごい!スゴイ!

 

ついに、エドワード・ケアリーの『アイアマンガー三部作』が完結を迎えた。

完結編となる「肺都」を2017年12月の大晦日に読み終えた今、この本の圧倒的なスケール感とラストの素晴らしいエンディングの余韻に浸っている。

前作「穢れの町」のラストで、“穢れの町”こと〈フィルチング〉を離れロンドンに向かうことになったクロッド。愛するルーシーとは離れ離れとなり、互いに互いの安否はわからないまま舞台はロンドンへと移る。アイアマンガー一族は、ロンドンを〈肺都(ランドン)〉と呼んでいる。

堆塵館は崩壊し、穢れの町は大火事で焼け野原となった。ロンドンの町では、人間が次々と姿を消し、代わりに様々な品物が忽然と姿をあらわす謎の現象が蔓延していた。それは、まさに解き放たれたアイアマンガーの力が及ぼす奇怪な現象に他ならない。さらにいえば、そこにはゴミを操ることで巨大な権力と能力を積み上げてきたアイアマンガー一族の野望が、はっきりと形をなしつつあるのだ。

愛するルーシーを穢れの町の大火で失ったクロッドは、祖父であり一族の長であるウンビットと再会し、アイアマンガー一族の野望に巻き込まれることになる。堆塵館を出てからの様々な経験と成長によって、物を自在に操る能力を高めてきたクロッドは、アイアマンガー一族に対するロンドン市民たちの差別的感情に怒り、そのパワーをさらに強大なものとしていく。

一方、穢れの町の混乱からどうにか脱出したルーシーは、クロッドを探し求め、肺都の地下深くに潜伏する反体制的な少年グループと合流し、この混乱との戦いに挑んでいく。それは、愛するクロッドを救済するための戦いであり、アイアマンガーという強大な権力やロンドンという社会から虐げられてきた者たちの復讐である。ルーシーは、反社会組織の象徴であり、彼女自信がレジスタンスなのだ。

しかし、なんという壮大なスケールの物語なのだろうか。「堆塵館」というクローズした場所からはじまったひ弱な少年と勝ち気な少女の物語は、「穢れの町」での冒険と苦難を経て大きく成長した。大人になった少年と少女は、それぞれに力強さと賢さを身に着け、大きな一族の中での葛藤、警察や民衆たちとの対立に敢然と立ち向かい、重く苦しい決断を迫られる。

この大きなスケールの物語を最後まで破綻することなく描き切るエドワード・ケアリーという作家の力には感服するしかない。彼のイマジネーションとそれをストーリーとして形にする力があるからこそ、アイアマンガー三部作は私たち読者を強く惹きつけるのだと思う。

アイアマンガー三部作は、主人公であるクロッドとルーシーが注目される物語であるが、脇を固める登場人物たちも魅力的なメンバーが揃っている。登場人物が多いので読んでいて混乱しそうになるが、少なくともアイアマンガー一族についてはケアリー自身の手による家系図が掲載されているので、それを確認しながら、ウンビットやクロッド以外のモーアカスやリピット、ビナディットといった登場人物についてチェックすることもできる。

「穢れの町」で登場して人気キャラクターとなったビナディットは、「肺都」にも引き続き登場する。「肺都」では彼に淡く切ない物語も用意されていて、ビナディットファンには胸に刺さるのではないだろうか。

訳者あとがきで古屋美登里さんは、「なぜ四巻目がないのかと狼狽え、呆然とする」読者がいるのではないか、と記している。確かに、アイアマンガー三部作は「肺都」で完結した。ラストがどういう展開になっているかはネタバレになるので記さないが、クロッドとルーシーの将来を想像したくなる終わり方になっている。古屋さんの言うように、ケアリー自身の手によるクロッドとルーシーの大人になった姿を読んでみたい気持ちもある。でも、やはりここはふたりの将来を私たち自身で想像してみるのが良いのだろうと思う。きっと、ひとりひとりの読者がそれぞれに思い描くふたりの未来が生まれると思う。

私にとっては、「肺都」が2017年を締めくくる読み納めの作品となった。レビューもこれが2017年のラストレビューである。1年の最後に読んだ作品が「肺都」であったことをとても幸せに感じる。気持ちのよい読書体験であった。

 

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