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【書評】アーサー・コナン・ドイル/阿部知二訳「恐怖の谷」(東京創元社)-ホームズ長編作品再読のラストは、ホームズ・シリーズでも屈指のエンターテインメント小説だった

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掲示板企画に連動して(と言いつつ完全に遅れているのだが)、シャーロック・ホームズ・シリーズ」作品を個人的に読み返している。今回は、その第4弾にして、ホームズシリーズの長編4作品のラストとなる「恐怖の谷」を読んでみた。

 

冒頭、ホームズとワトスンは、ポーロックという人物から届いた暗号文の謎を解いている。それは次のような暗号文だ。

534 C2 13 127 36 31 4 17 21 41 ダグラス 109 293 5 37 バールストン 26 バールストン 9 47 171

暗号を解く鍵は、ポーロックから別便で届けられるはずだったが、危険を感じたポーロックがこの件から手を引いたため、謎の暗号文だけが残された。ふたりはそれぞれの推理力を働かせて暗号文を解読する。そこには、「バールストンのバールストン荘に住むダグラスという男に危険が迫っている」という内容が書かれていた。暗号を解読したふたりのところへ警視庁のマクドナルド警部が訪れる。暗号解読の結果を知った警部は、ふたりにこう告げた。バールストン荘園のダグラス氏が今朝惨殺されたのだ、と。

ダグラス氏は、アメリカの金鉱で財を成した人物で、その財産を使ってバールストン荘園の館を手に入れた。地元の人からの評判は悪くない。そのダグラス氏が惨殺されたのだ。猟銃で撃ち抜かれた頭はこなごなにつぶれていた。部屋の扉は開けてあったが、館を取り囲む濠にかかる跳ね橋はあげられていた。犯人は濠をわたって館に出入りしたことになる。現場には、「V.V.341」と記されたカードが落ちていた。遺体からは結婚指輪が抜き取られていた。

本書は、2部構成になっている。「第1部 バールストンの悲劇」で、事件の発生とホームズの捜査と推理による解決までが描かれ、「第2部 天誅団」で事件の背景にある過去の出来事が描かれる。ホームズ・シリーズの長編4作のうち「バスカヴィル家の犬」以外の3作品がこのパターンの構成になっている。ドイルは、このパターンがお気に入りだったのだろうか。

「恐怖の谷」は、ホームズ・シリーズの4長編の中では一番印象が薄い。私も、読み返してみてほとんど内容を覚えていなかった。そういう意味では古典作品でありながら新鮮な読み心地を味わえたことになる。

ただ、作品としてはあまり知名度が高くないけれど、内容的にはかなり高いレベルの面白さがある。ミステリーとしてのトリックもよく考えられているし、第2部もそれだけ単独でも作品として成立している。ミステリー要素だけでなく、アクション、バイオレンス、ハードボイルドの要素も含まれていて、エンターテインメント小説としてはシリーズ内でも屈指の作品なのではないだろうか。

さて、これでホームズ・シリーズの長編小説はすべて読み返した。次回からは「シャーロック・ホームズの冒険」に始まる短編集を読み返していこうと思う。少しずつ、ゆっくりとね。