前作「弁護士アイゼンベルク」を読んだのが2018年6月。それから2年、待望の第2弾が翻訳刊行された。「弁護士アイゼンベルク 突破口」である。
前作では冒頭から主人公の弁護士ラヘル・アイゼンベルクが、何者かによって人里離れた家に手足を拘束された状態で監禁され、迫りくる死の恐怖に怯えているというインパクトのある場面から物語がスタートし、そこから一気にストーリーが展開していく読み応えのあるジェットコースターサスペンスだったが、本作も読者を惹きつけるストーリー展開は健在だ。
2017年5月28日。日曜日のその日、ラヘル・アイゼンベルクは、娘ザーラと少し口論となり、気持ちを落ち着かせようと町最大のビアガーデン〈ヒルシュガルテン〉でビールを飲んでいた。そこで彼女はユーディット・ケラーマンを見かける。ユーディットは、有名な映画プロデューサーの娘で、自らも『ジャンプカット』というプロダクションを経営している。ふたりが話していると警官が現れ、ユーディットは逮捕されてしまう。容疑は殺人。恋人のアイケ・ザントナーをプラスティック爆弾を使って爆殺したというものだった。ユーディットは容疑を全面否定するが、彼女の家からプラスティック爆弾の包み紙や遠隔操作に使用したと思われる携帯電話が発見され、検察は彼女が犯人である確信を深めていく。
なりゆきからユーディットの弁護人となったラヘルは、ユーディットが無実である証拠を求めて捜査を開始する。旧東ドイツ国家保安省の元職員で探偵事務所を開いているアクセル・バウムと契約し、ユーディットの無実を証明するための証言や証拠を求めて調査を進める。ユーディットの嫌疑を晴らし、彼女を検察から解放しようと手を尽くすラヘルたち弁護側とユーディットを事件の容疑者と確信とする検察側とのせめぎあいは、スリリングな知的攻防戦である。
本書では、爆殺事件に絡む弁護士vs.検察のストーリーと並行して、ユーディットの過去の物語が描かれる。2012年のミュンヘンで起きたユーディットの恋愛と連続殺人事件のストーリーだ。ユーディット・ケラーマンというひとりの女性をめぐる2017年と2012年のふたつのストーリーは、話が進んでいくほどに互いに引きつけられ、やがて交差する。その瞬間、読者はそれまでぼんやりとしていた事件の謎がすべて絡み合い、すべての真相がクリアになったことを感じるだろう。と同時に、ユーディットに迫る死のタイムリミットと彼女の危機を阻止すべく疾走するラヘルたちの手に汗握るラストの怒涛の展開に胸を高鳴らせるだろう。
前作「弁護士アイゼンベルク」も圧倒的なスピード感とスリリングな展開で読んでいる間はずっと物語の世界に惹きつけられていたが、本作もそれ以上にスリリングで、読み始めたら止めらなくなる魅力的な作品になっている。もともとテレビ局に勤めていて、サスペンスドラマの脚本も手掛けていたという経歴をもつ著者だけに、読者を飽きさせないストーリー展開、気持ちを昂揚させるジェットコースターのような迫力のある場面描写で、ハラハラドキドキ、ワクワクする読書タイムを過ごせた。